6部分:第六章
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は首を捻ってヒルダに話した。
「あれは」
「大統領の指はなくなったわよね」
「ええ、左手の指はね」
突如襲い掛かってきたテロリスト、ジンツァーを独裁者と認識する反EU主義者の手によるものだった。こうした考えはEECの頃から存在している。
その彼のテロでだ。ジンツァーは指を失った。その時にだった。
「指輪をしていた指がなくなったから」
「それでなのね」
「ええ、そうだと思うわ」
そのせいでだというのだ。
「指輪が。その時に大統領から離れたから」
「だからあの人は助かったのね」
「そう思うわ。ただね」
指輪による破滅は免れた。だがそれでもだというのだ。
「指輪を失ったから」
「それで英雄でもなくなった」
「EUを導くこともできなくなったのよ」
破滅は免れた、だが彼は権力の座にもいられなくなったというのだ。
「そうだと思うわ」
「そういうことなのね。つまりは」
「ええ。望むものを与えると共に破滅ももたらす指輪」
そしてそれがなくなるとだというのだ。
「それがなくなったから」
「大統領は助かったけれど大統領でもなくなった」
「ええ、そうだと思うわ」
こう話すヒルダだった。母も娘のその言葉に頷く。
そしてそれから暫く後でだ。ヒルダは。
あの指輪をライン河の岸辺で見つけた。しかしだ。
その指輪は指で抓んで河の中に投げ入れた。するとそこから白い女の手が出て来てだ。
今河の中に入ろうとしている指輪を掴んで消えた。彼女はその指輪を受け取らなかった。破滅も望みもあえて避けたのである。
呪いの指輪 完
2012・2・4
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