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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百十八話 内乱への道 (その1)
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ヴァレンシュタイン司令長官の声が苦汁の色を帯びた。やりすぎた? 司令長官が仕掛けた謀略の事だろうか? 貴族たちは皆悪辣だと言って怖気をふるったというけれど……。

「うむ、それもあるが彼らは待つ事が出来る事に気付いたのだ。それが大きいと思う」
「待つ事、ですか……」

ヴァレンシュタイン司令長官が不思議そうな顔をした。いつも穏やかに微笑んでいる司令長官の不思議そうな顔。その表情が彼を年齢より幼く見せる。こんな時なのに思わず見とれてしまった。

「エルウィン・ヨーゼフ殿下は未だ五歳だ。たとえ即位されても殿下が御世継ぎを得るまで十年はかかるだろう。それに殿下が無事成人されるという保証は何処にも無い」
「……」

「分るな、ヴァレンシュタイン。彼らは気付いたのだ。陛下が崩御され殿下が即位されても焦る必要は無いと。十年間余裕は有る、その十年の間に殿下がなくなられた場合、皇位は自分たちの手に落ちるだろうと」

「……」
養父の言葉がつむぎだされるにつれ、ヴァレンシュタイン司令長官の表情は苦痛の色を濃くしてゆく。

「ヴァレンシュタイン、彼らが今何をしようとしているか分るか?」
「……いえ、分りません」
「ブラウンシュバイク公も、リッテンハイム侯も娘の伴侶を決めようとしている」

「……勢力固めですか」
「そうだ、有力者の子弟を必死に見極めようとしている。役に立つか、立たぬか」
勢力固め……。陛下が御存命なのに次の帝位を自家にもたらすべくブラウンシュバイク公も、リッテンハイム侯も動き始めている。

「当初エリザベート・フォン・ブラウンシュバイクの婿候補に卿の名前も上がったらしい」
「!」

驚きの余り思わず養父の顔をまじまじと見てしまった。私の視線に気付いているはずなのに養父は私を見ようとしない。ヴァレンシュタイン司令長官は……、長官も初耳だったらしい。呆然としている。

「一番厄介な敵を取り込んでしまえ、そんなところだな。だが直ぐ外された。理由は……」
言いよどんだ養父の言葉を司令長官が引き取った。そして残酷なまでに冷酷に言葉をつむいだ。

「私が平民だからですね。私とエリザベートの間に子が生まれた場合、父親が平民という事で皇位継承に差しさわりがある。つまりエリザベートが女帝になるのは問題が有る。リッテンハイム侯はそう主張するでしょう」
「……」

沈黙が落ちた。息をする事さえためらわれるような沈黙だ。三人とも身じろぎもしない。私は視線を伏せたまま上げる事が出来ない。司令長官の口調に怒りは無かった、嘲りも無かった。落ち着いた平静な声だった。

何を考えているのだろう? 司令長官がエリザベート様の婿になりたがっているとは思えない。でも平民であるという事だけで忌諱されたことは司令長官にとって決して愉快
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