第一部 PHANTOM BLAZE
CHAPTER#3
RED ZONE 〜封絶〜
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後へ大きく振りかぶる。
だから次に承太郎が取った行動は、完全に思考の範疇外だった。
「ッッ!?」
承太郎は、開いた左手を無造作に目の前へと差し出した。
自分の背丈に合わせるよう、やや下げて。
完全に虚を突かれたシャナは、その紅い瞳を大刀を振りかぶったままの体勢で丸くする。
どうやら「叩け」という事らしい。
それは解る。
“そんな事” は解る。
問題はそんな事に、今、自分が面食らっているという事実だ。
承太郎は口元に微笑を浮べていた。そこに皮肉や侮蔑を表す色はない。
あるのは、ただ。
ただ……
世間一般の女性なら、その殆どが再起不能に陥るであろうと推察される承太郎の微笑に、
何故かシャナの裡で渦巻いていた怒りは霧のように消え去った。
まるで最初から、存在すらしていなかったかのようだった。
その感情がまるで理解不能な為、シャナは半ば八つ当たり気味に
承太郎の大きな掌中へと自分の小さな手の平を跡がつくほど思いきり強く叩きつける。
渇いた音が、紅く染まった空間に大きく鳴り響いた。
「……」
そのまま黙って数歩前に進んだシャナは、いきなりピタッと立ち止まったかと思うと
素早く背後に振り返って承太郎を睨んだ。
「言っとくけどッ! 私の名前は “シャナ!”
ク……ガキでもチビジャリでもないッ! 二度と間違えるな!!」
胸の中を吹き抜ける爽快感は何かの間違いだと思考の隅に追いやり、
その顔を灼眼より真っ赤にしたシャナは叫ぶ。
自分には今まで「名前」がなかったので、何故かソレを不憫に想った
ジョセフとその妻のスージーが色々試行錯誤の上、
持っている愛刀の銘から付けてくれた「名前」だ。
(何故か二人とも途轍もなく「真剣」で、テーブルの上で山積みとなった
命名に関する書物を前に、議論は夫婦喧嘩寸前にまで白熱した)
でも今では、それなりに気に入っていた。
共に過ごした時間はそんなに長くはない筈だが、
二人とも自分を本当の「孫」のように可愛がってくれたから。
二人の「善意」は非常に解りやすかったので、ジョセフとスージーには
素直に好意を抱く事が出来た。
そう、アラストールと同じように。
だが。
今、目の前にいる、 その二人の 『孫』 は。
睨み返して言った自分の言葉に「やれやれ」とハンドマークのプレートが
付いた学帽の鍔を摘んだだけだった。
影になった顔の口元には、まださっきの余韻が残っている。
その余裕の態度が、さらにシャナを苛立たせた。
(なによ、なによ、なによッ! 一体なんなのよッ! コイツはッ!?)
不分明な感情が余計に火勢を煽る。
(わけわかんない! なんだかしらないけど生意気よ!
本当になんて変な、じゃない!
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