第三十一話 研修先でもその十四
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「全く。私なんか」
「ですから先輩もですね」
「しないって言ったじゃない」
ここでもいつもの調子のよさを見せてきました。
「何度言わせるのよ。いい加減にしなさい」
「まあまあ。そんなに怒らずに」
「怒ってなんかいないわよ」
そうは言ってもこの調子のよさ。毎度毎度思うんですがどうにかならないのでしょうか。
「とにかく。写真よね」
「はい、それです」
「いいわ。撮りましょう」
何だかんだでそれはオッケーを出しました。
「二人でね」
「それじゃあ僕が撮りますね。こうやって」
手を前に出してそれで撮ろうとしてきます。
「これでいいですよね」
「ええ、それでいいわよ」
「それじゃあ」
「ああ、写真ですね」
けれどここで前から声がかかってきました。
「あれっ!?」
「あの人は」
「それなら僕に撮らせて下さい」
前からお侍さんがやって来ました。結構若い人です。
「よかったら」
「あの、お侍さんですか」
「ええ、アルバイトの」
私の言葉に答えてくれました。
「ここの大学に通っていまして。それで」
「京都の大学にですか」
「そうなんですよ。京都にいたらこうしたアルバイトもありますよ」
「へえ」
私はその話を聞いて少し驚きました。映画村でアルバイトができるなんて凄くいいと思います。時代劇に出てしかもこうした格好までできるなんて。
「他にも町人とか罪人とかもありますよ」
「色々なんですね」
「それにしてもこちらの女の子は」
女の子は私一人しかいないんですけれど。
「随分と背が高くて奇麗ですね」
「え、ええまあ」
阿波野君はわざとかどうかわかりませんが黙っているので私が答えました。何で私が答えなければいけないのかかなり不満でしたけれど。
「ちょっと花魁さんの格好したいって言いまして」
「凄く似合ってますよ」
大学生のお侍さんは事情を知らないままこう仰るのでした。
「とても」
「そうですか」
また私が答えました。
「そんなに」
「揚巻ですよね」
「はい」
だから何で私が答えるんでしょう。
「助六のでしたっけ」
「ええ。それになるなんてお目が高い」
そうらしいです。その話を聞きながら阿波野君をちらりと見ます。
「それじゃあ写真を」
「御願いします」
こうして阿波野君と一緒に写真を撮ってもらいました。映画村の話はこれで終わりではなかったです。たった一日なのに物凄いボリュームでした。
第三十一話 完
2008・12・31
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