18話 鈴戦
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論としては雨のように注がれる龍砲を力づくで突破し、読み合いに発展させ、その読み合いに勝つことだ。
見えない弾丸に対して正面から突っ込むなどと正気を疑われかねない、狂気の領域だろう。見えていない分恐怖は膨れ上がる。にも関わらず挑もうとするのは今の月夜 鬼一の持つ才能が撤退を拒んでいるからだ。
本能から伝わる避難勧告の一切を切り捨て、恐怖で震える手足を律し、疲労からくる筋肉のダメージを黙らせ、急激に暴走する思考を黙らせる。ISの絶対防御という命綱があったとしても、まともな人間ならその恐怖を克服することはない。
そしてこの恐怖は1歩踏み込むごとに倍増していくゲームだ。龍砲の見えない弾丸もそうだが、鳳 鈴音の卓越した近接戦闘スキルも口を開けて待っている。その間合いに近づくだけ肉体と精神にかかる負担はいやにも増していく。
「―――はっ」
鼻で笑う。それがどうした。この程度の恐怖はとうの昔に何度も踏み越えている。いや、踏み越えなければならなかった。
指を失う時の恐怖と激痛や、自分の尽くを叩き潰される絶望は言葉に出来るものではない。それらの恐怖に比べれば遥かにマシだ。
肉体の負担は誤魔化すことには限度があるが、精神の負担はどうにでもコントロール出来る。精神をコントロールできるのであれば、多少の肉体的なダメージなどねじ伏せることが可能だ。精神論は鬼一の好むところではないが、最終的には、ギリギリの際の戦いになった時自分を支えるのはメンタルしかないことを骨の髄まで理解している。
とても正気の沙汰ではない。
絶望に近い緊張感と無邪気な高揚が胸の中を満たし、鬼は左腕に力を入れる。
今か今かと鬼火が吠えたがっている。鬼の視界にはもはや獲物しか映らない。ここから先の世界は常人では踏み入れることすら許されない絶対的なステージ。本人はどれだけそれが危険なことか理解しているのかは定かではないが、月夜 鬼一の才能はその境界線を行き来できる。
そして肉体はそれを写し出すための鏡でしかない。壊れることは最初から片隅にもとどめない。
そんなことよりも負けることの方が耐えられない。
「―――いくぜ」
大気が震える。鬼神を通し鬼の身体から溢れ出る裂帛の気合が空気を歪ませる。
己と相手をステージに引き込み、明確な挑戦状を叩きつけた。さあ、どうする? と。相手に問いかける。己はいつでもいけるところまで行けるぞ、と。
その身を切り裂くような緊張感を鈴は感じ取る。同時に、相手からの挑戦状を受け取り嬉しそうに獰猛さを感じさせる笑みを零し、自身の牙を剥き出しにする。
本来ならここで鈴は引き上げるべきであった。鬼一の持つそれに鈴は届き得ない。
だが引かない。鈴のプライドと本能がそれを許しはしなか
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