暁 〜小説投稿サイト〜
世界最年少のプロゲーマーが女性の世界に
18話 鈴戦
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なく、これだけの相手と戦えることに感謝する笑いだ。格上とガチンコで戦える機会があるというのは思っている以上に存在しないもの。
 どうせ破らなければならない壁なんだ。今ここで破るチャンスが巡って来たのは、欠片も信じていない神様が仕組んだようにも思えた。

 世界2人目の男性操縦者と中国の代表候補生との試合。僕と鈴さんが模擬戦するという話を聞いて、学年問わず人が見に来ているという話を聞いた。興味から見に来るというのもあるだろうが、代表決定戦で1位になった僕が負けるのを期待して見に来るのは容易に予想が出来た。

 そして今回の戦い、100人のIS操縦者がいるなら100人が僕が勝てないと嘲笑うだろう。勝てるはずがないと、不可能なことだと、挑む価値すらもないとね。僕も外野にいたなら、もしかしたらそう笑っていたかもしれない。外野にいることなどありえないが。

 一夏さんへの言葉などハッキリ言って建前でしかない。それよりも先に今は高揚感が先行している。それはとても不思議な感覚だ。今までの、どんな戦いにもこんな高揚感を感じたことがあっただろうか? 緊張もせず、気負いもせず、不気味なほどに身体から余計な力が抜けている。

 深く、深く呼吸を繰り返す。逸り気味の高揚感を落ち着かせるように。感情は時として大きな武器になる。が、それは過程に置いては邪魔になることが多いのだ。今は引っ込んでいてもらう。

「さてと……勝負しようじゃないか。中国の龍」

―――――――――

 ピットから出撃すると既に鈴さんが自身のIS、甲龍を身に纏った状態で空中に静止していた。少しも微動だにしないその姿だけでも実力があるのが見て取れる。
 両者の距離は15メートル。IS同士の戦いであれば一息で踏み込める程度の距離。この距離からでも彼女の身体から滲み出ている空気は感じ取れた。
 目を閉じて静かに待っていた鈴さんだったが、僕が来たことに気づいたのか瞼をゆっくりと上げて僕を視界に捉えた。

 オープンチャンネルで鈴さんから通信が飛んで来る。

「―――悪いわね鬼一。突然試合を申し込むような真似して」

「別に構いませんよ。一夏さんへの理由を除いても戦ってみたかったのは本音です」

 突然の謝罪に、気にする必要はないという意味を込めて返事をした。格上に挑めるというのはそれだけで、ある意味では幸福なことでもある。それを理解しているからこそ言える言葉でもあった。

「大丈夫なら理由をお聞きしてもよろしいでしょうか? この模擬戦を挑んてきた意図くらいは聞きたいのですが」

 僕の言葉に鈴さんはバツが悪くなったように視線を明後日の方向に向けた。鈴さんは直情的な人間に見えるが、いくらなんでも考えなしに格下に対してこんなことをふっかける人間には見えない。


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