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血のせいにはならない
5部分:第五章

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第五章

「人について考えています」
「ケンタウロスである君がか」
「はい、人とは何か」
 若いケンタウロスはこのことについても言った。
「それは何かとです」
「では聞こう」
 賢者は内心では彼がケンタウロスだと思っていた。しかしだ。
 顔には出さずにだ。彼に再び問うたのであった。
「君は人とはどういったものかと考えている」
「まず必要なのは心です」
 それが重要だとだ。彼は答えた。
「心がどうあるかです」
「ではどういった心が人の心か」
「人は不安定なものです」
 ケンタウロスが語るのはこの前提からだった。
「常に善悪の狭間で揺れ動いています」
「人は邪悪なだけではないというのだな」
「アストレイアの天秤ですね」
 正義の女神の天秤だ。ギリシアの者達はこの天秤は人の心を測る場合は常に邪悪に傾くと考えている。つまりギリシア人は人を悪だと考えているのだ。
 ケンタウロスはその天秤についてだ。こう語った。
「若し人の心が邪悪なだけならば天秤は不要です」
「測るまでもないか」
「そうです。善があるからこそです」
「天秤が必要でありか」
「人は不安定に揺れ動くものなのです」
 そのだ。善悪の間でだとだ。ケンタウロスは遠いものを見る様な澄んだ目で賢者に答えた。
「ですがそこにこそです」
「そこにだというのか」
「人があります。人の心が」
「では善悪もあるからか」
「はい、人は人であるのです」
 これがこのケンタウロスの考えだった。
「不安定な。揺れ動く心があるからこそです」
「人なのだな」
「私はそう考えています」
「成程な。では君はどうなのだ」
「私ですか」
「ケンタウロスである君はどうなのだ」
 賢者はケンタウロスの目を見据えてだ。彼に再び問うた。あえてそうしたのだ。
「君はどうなのだ」
「私ですか」
「そうだ。ケンタウロスである君はどうなのだ」
「それは私だけでしょうか」
「何っ?」
「私の同胞達全てもでしょうか」
 彼だけでなくだ。他のケンタウロス達もどうかというのだ。

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