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第一部 PHANTOM BLAZE
プロローグ 〜MEN OF THE DESTINY〜
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 神である主、今おられ、かつておられ、
 やがて来られる方、全能者がこう言われる。
「わたしはアルファであり、オメガである」
【新約聖書 ヨハネの黙示録−第1章−8節】












 雨。
 舞い落ちる銀色の雫。
 その緩やかに降る儚き存在の飛沫(ひまつ)が、
派手な学制服のズボンに両手を突っ込んで佇む
無頼の貴公子を濡らしていく。
 急激な気温の変化によって白い(もや)が発生するほどの、
()せ返るような雨の匂い。
 その特注品である学ラン姿の「彼」を取り巻く状況、は。
 血。 
 血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。 
 夥しい量の、鮮血の海。
 砕けた歯や千切れた肉片、ソレらが引き裂かれた衣服の切れ端や
粉々に破壊されたメッキのアクセサリー、
バラバラに砕けた凶器の破片らと共に路上へ散らばっている。
 そして周囲から湧き起こる、無数の(うめ)き声。
 服装と頭髪で、(タチ)の悪い街のチンピラだと一目で解る風体。
「う……うううぅぅぅ……!」
「に、人間じゃ……ねぇ……」
「バ、バケモノ……だ……!」
「こ、殺され……る……」
“バケモノ” か。
 劣悪な街のチンピラ風情にそう呼ばれた美貌の青年は、
ただ自嘲気味に微笑(わら)っただけだった。
「確かにな……」
 バケモノ。
 周囲の重篤な男達にそう呼ばれた張本人は、
自嘲的な笑みを崩さないまま前衛的な学生服の内側から
青い煙草のパッケージを取り出す。
 慣れた手つきで一本引き抜き、
チャコールフィルターの濃い末端を色素の薄い口唇に(くわ)える。
 ジボッ!
 突如、その口唇の先端に、“何もしていないのに”火が点いた。
「……」
 彼は、眼前の「変異」に眉一つ(ひそ)めず、端麗な口唇から紫煙を細く吹き出す。
 そして、舞い落ちる雨露に身を濡らしながらゆっくりと空を仰ぎ見た。
 日本人離れしたライトグリーンの瞳、
雨雲で灰色に染まってはいるが彼はしっかりとその光景を灼きつけた。
 しばらく、見納めになるからだ。
 これから自分は、冷たいコンクリートと頑強な鉄格子とで覆われた牢獄に
己の身を 「封印」 しなければならない。
 いつの頃からか?
 知らない間に己の背後に巣喰っていた、一匹の 【悪霊】 と共に。
 やがて聞こえてくる、無数のサイレン。
 日常と非日常とを割かつ、律法の反響。
 その音を聞いた彼は恐怖と絶望の表情を浮かべるでなく、
かといって逃げるわけでもなく、口唇から根本まで灰になった
煙草のフィルターを路上に吹き捨てただけだった。
 赤い飛沫が、雨露と共にアスファルトの上で跳ねる。

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