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偶像
2部分:第二章
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第二章

「モーゼよ、ここはだ」
「兄さん・・・・・・」
 モーゼの兄のアロンだ。彼と共にヘブライの民達をここまで導いてきた。その彼が来たのだ。
「見せるしかない」
「見せる?何をだ」
「神をだ」
 他ならぬだ。彼等の神を見せなければならないというのだ。
「神のそれをだ。見せるしかない」
「だが神はだ」
「姿がないというのだな」
「そうだ。兄さんは神のお姿を御存知か」
「いや、知らない」
 アロンは弟の問いに首を横に振った。
「私も神のお姿というと」
「そうだな。知らないな」
「我等の神は違うのだ」
 どう違うかというと。それは。
「あの忌まわしいエジプトやチグリス、ユーフラテスの神々とは違いだ」
「動物の頭を持つ神ではない」
「人の姿であり人に描かれる神ではない」
「神の姿を現すことはなかった」
「それは悪徳だった」
 偶像、それは神を冒涜するものとしてだ。彼等は考えてきたのだ。
「だからだ。それはだ」
「そうだ。誰も知らない」
 モーゼもアロンも。それはだった。
「神のお姿はな」
「そして神もまた、だ」
「我々の前にお姿を現されることはない」
「決してな」
「どうすればいいのだ」
 モーゼは真剣に悩んでいた。今の状況に。
「同胞達はこのままでは」
「ここから一歩も動けないだろう」
「エジプトから脱したというのに」
 彼等の悲願であるそれはできた。だがそれでもだったのだ。
「この様な場所で止まってしまうのか」
「この場所では人は住めない」
 アロンは彼等の周囲、草木なぞ一本もない砂と岩ばかりの土地を見回してモーゼに話した。
「とてもな」
「そうだな。この様な場所ではな」
「住める筈がない」
「それこそ毒蛇や蠍しか住めない」
「だからだ。ここに留まることはできない」
 アロンはこの現実、厳然たるそれをモーゼに話した。
「我々は我々の地に戻らなければならないのだ」
「シオンの地に」
「だからこそ何とかしなければならないが」
「しかし神は」
「モーゼ、聞けるか」
 真剣な面持ちでだ。アロンはモーゼに問うた。
「御前は神のお言葉を聞いてきたな」
「だからこそ皆をここまで導けた」
 その確かな信仰故にだ。モーゼは神から信頼されその言葉を聞けるのだ。これはアロンにもないことだ。まさにモーゼだけのことだった。
 そのことからだ。モーゼは今兄に話したのである。
「私は。それができた」
「では神は御前に仰る筈だ」
「今どうすべきかを」
「そうだ。だから聞くのだ」
 これがアロンの弟への今の言葉だった。
「ではいいな」
「そうだな。わかった」
 モーゼもだ。アロンのその提案に頷いた。そうしてだ。
 神の言葉を待った。やがて実際にその言葉が来た。そ
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