17話
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話したのに、その現実を直視できないドリーマーみたいな言い方は」
現実を直視できないドリーマー、ある意味ではそうかもしれないけど。自分の実力の温さで「優勝するーっ!」なんてアホみたいに叫んでいたことがあるくらいだし。
まあ、でもいいか。目の前の人は無邪気に笑っているみたいだし。それだけでも話した価値はあると思いたい。
「せっかく話したんですから1個だけいいですかね?」
僕の質問に、涙さえ浮かべて笑っている先輩は必死に笑いを押さえようとしている。……そんな笑われると逆に傷つきそうなんですが。
「いいわよ。おねーさんに答えられることならなんだって」
「じゃあ、遠慮なく。先輩は妹さんと仲良くなりたいんですか?」
僕のその質問に先輩は引きつった笑みに変化した。だけどその笑みは、さっきの表情に比べて前向きなものに見える。引きつったのは多分、僕が予想よりも直球で踏み込んできたからだろう。とは言っても、これだけ話してくれたんだから今更変に取り繕う必要もないだろう。
あー、とか、うー、とかよく分からない呻き声を上げながら先輩は視線を彷徨わせる。本人もまだ纏めきれていないんだろう。
「……そ、そうね……。その、やっぱり、一番大切な家族だし? 昔みたいに話したいなー、と思ってるよ……」
先輩にしては珍しく歯切れの悪い口調で、声が小さくなって最後の方はもうほとんど聞こえないくらいだった。やっぱり長年のこともあってか、そうは簡単に切り替えられるわけもない。
だけど、それが本心なのは感じた。
だったらそれだけでいいだろう。
それだけで人は歩いていけるんだから。
「そうですか。良いと思いますよ」
これ以上、僕が踏み込む必要はないだろう。家族間の問題に必要以上に触れたくない。もし、先輩から手伝って欲しいと言ってもらえるなら、その時はその時で考えて行動する。
「……ところで鬼一くん? この両手はいつまで乙女の顔に触れているのかな?」
……あっ。
ニヤリ、としたイタズラっ子を彷彿とさせるその笑み。冷静に今の状態を考え直す。
薄暗い部屋、ベッドに横になっている2人の男女、男性の両手は女性の顔を包んでいる。
爆発しそうなほどの熱が全身に走った。
「―――っ!」
両手を離して慌てて距離を取ろうとした。だが、今僕らがいるのはベッドの上だ。つまり、離れようとしたら必然的に―――
「いった!?」
ベッドから転げ落ちるということだ。バランスを崩してベッドから落ちた僕はゴロゴロと無様に転げ回った。
「っ、あはははは!」
視界が上下逆になった僕はそんな風に笑っている先輩を見て、少しは力になれたなら良かった、と安堵していた。
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