17話
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に思えた。そんなことよりも家族の方が大切なんだと。家族が幸せなら、自分1人だけならどんなことでも、どんな戦いでも耐えられる、そんな悲痛な覚悟がそこにはあったと思う。
何よりも大切にしているからこそ、自分が与えてしまった苦しみや痛みが愚かなんだと考えてしまったんだ。取り返しのつかないことをしたことが今も悔しいんだと思う。
「……羨ましいな」 気づかれないように小さく呟く。
……僕はそれをある意味で、ひたすらに羨ましいと思う。
どんな形であれ『愛情』を向けられる家族がいて、その『愛情』を受け取れる家族がいるというのは嫉妬のような、羨望のような、妬ましいような、色んな感情が複雑に僕の胸をグルグルと駆け巡る。
短く気づかれないように息を吐く。今、重要なことはそんなことじゃない。
「……楯無先輩、やめましょうよそれは」
僕のその言葉に身体を震わせる先輩。
「……そう、よね。私のしたことは、間違いだったよね」
初めて、先輩が僕から視線を切った。だけど僕の言葉に耳を傾けている。僕の言葉を聞かないという選択肢があるにも関わらずだ。その様子に僕は一つの確信を抱く。
つまり彼女は誰かにそれが間違いだった、と責めて欲しかったのではないかと思えた。裁きではなく、ただ責めて欲しいのだと。確かに、誰かに責めてもらえた方が楽になれるというのは時として真実だ。だけど、僕はこの人に対してそんなことはしたくない。
この人は単純に誰かに聞いて欲しい、などと曖昧な理由で自分の『大切』なことを口にしたりはしない。こんな大切なことを僕に話してもらえたことは1人の人間として嬉しい。
僕にとってもこの人は大切だからこそ、過去の行為の肯定や否定、慰めなんかは口にしたくないし、そんな安易なことは出来ない。
この人に必要なのは自分と妹を苦しめる『過去』じゃなく、『現在』を変えたいと思う心と、本心から望める『未来』の2つだけだ。まだ遅くないはずだ。まだ、2人とも生きているんだから。手を伸ばせば、口を開けばすぐに届く距離にいるんだ。諦めるのは、思いを口にしてぶつかりあって全てを吐き尽くしたときだけでいい。
だから僕は、この人に対して果てしなく身勝手なことを言う。本心を口にしてもらえたのなら本心で、感情に塗れた言葉で返したい。理屈や一般論とかはどうだっていい。僕もこの人もそんなものとは無縁の道を歩いてきた。
一般的には不可能、出来るはずがないことを僕たちは覆してきたのだから。
「違います」
ハッキリとした言葉で力強く否定する。自分が伝えたいことはそんなことじゃない。
僕を拘束する先輩の右腕を剥がして、動くようになった左腕と右腕で先輩の顔を包んで視線を合わせる。その濡れた紅い瞳に胸が締め付け
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