第八話 仮面舞踏会だよミューゼル退治 そのC
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しれないぞ」
『これって…』『ああ、間違いない』
使者に『ご』と付くということは使者を遣わしたのは皇帝陛下かそれに準ずるやんごとなき方でしかありえない。ご使者の到来にお屋敷がわき立っているということは、言い渡されるのは処罰ではなく褒賞であろうことは容易に推測できる。
事ここに至って俺たちはようやく、マールバッハ家が復活後最初の試練を乗り切ったこと、俺の推挙がうまくいったを知った。
「あの蘭の花は見事だったからなあ。俺の用意した宝石色の蘭の花も効いたんだろうなあ」
皇帝陛下からのご使者を待つ間、自分の仕事、つまり献金を整えたことを自慢したくてたまらないらしい従者が教えてくれたところによると、マールバッハ伯爵家が献上した荘園、リューデスの荘園は皇妃陛下がたいそうお気に召したようで、マールバッハ家は伯爵中での序列が大幅に上昇し、献上した荘園に比べればやや格は落ちるものの、同規模の荘園をコルマー、ヴィアンデン、ラウタータールと三か所に賜ることになった。お館様に代わって献上の一切を取り仕切った家宰様にも爵位を男爵から伯爵に進め、星系一つを所領として新たに賜るとの内意があった。宝石色の蘭の花を用意した従者や父上、フォン・クナップシュタインも功績を称えられ、父上は家格が『銀の拍車の騎士』に、フォン・クナップシュタインは有爵貴族候補である『黄金拍車の騎士』に上がる。
俺が家宰様に推薦した三人、ゴットリープ・メックリンガーとヴァルディ・ヴァーツェル・ミッターマイヤーとジークムント・キルヒアイスも皇妃陛下に気に入られ、揃ってフォン持ちの身分、真鍮の拍車の騎士に取り立てられる、とのことだった。ゴットリープと息子のエルネストは新設される楽団の楽長、副楽長の地位も合わせて与えられた。
『三人のうち一人ラインハルトに会わないようにできればと思っていたが、ここまでうまくいくとは…』
あまりの出来事、見事な成功に俺はしばらくの間言葉を失っていた。
「近年稀なご出世、宮中では貴殿の噂で持ちきりですぞ」
「全ては皇帝陛下の聖恩の賜物、非力な臣の成し得たことなど如何ほどもございませぬ」
「よい心がけでございますな。この後もゆめゆめ、その心をお忘れにならぬよう」
『忘れないさ。せいぜい犬のふりをしてやるとも』
やがて内示を持ってきたご使者、クルムバッハ子爵とかいう貴族が従者から聞いた通りの内容をもったいぶった所作と口調で言い渡し、謹厳な表情で応対するお館様、家宰様に見送られてほくほく顔で帰って行くのを見送り、成功に自信を得た俺はますます出世への意欲を強くしていた。
その決意が近い将来大いに困惑する事態を生じさせることになるとは、思いもよらなかった。
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