第八話 仮面舞踏会だよミューゼル退治 そのC
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決意の夜から一月。
初日の夜に激震があったほかは、休暇中はもう大事件が起こることもなく。俺は平穏な日々を送っていた。とはいえ無為に過ごしたわけではない。
『肉体の意志』『遺伝子の意志』に負けてしまわないためには肉体と精神の鍛練は欠かすわけにはいかない。皇帝陛下やお館様にとって有為の人材であるためには、学問を修め教養も高めなければならない。最悪父上が何らかの失敗をしてお館様の不興を被るようなことになった時生きのびるため──フェザーンや叛徒のところに逃れる事態になったら、頼りになるのは事業力と生活力だけだ──、事業についても学んでおく必要がある。
そしてなにより人脈の形成である。
これら全てに、俺は今までに倍する労力を傾けた。
「しばらくぶりだな、アルフレット、ブルーノ。元気そうで何よりだ」
「お館様…オスカー様も」
「剣を見てやる。腕は鈍っていないだろうな、二人とも」
学問の合間にお館様のところにご挨拶に参上し、家宰様の紹介のあったフォン・シェーンコップやフォン・ワイツ、フォン・クナップシュタインやクナップシュタイン男爵、そしてアーヴェルカンプ伯爵といった一門の方々と文通を重ねて指導を受け、ルーカス・フォン・レーリンガーやその従兄弟のマルカード・フォン・ハックシュタインたち同世代の幼年学校生とも文通やマトリクス通信のやりとりをし、一緒に鍛練を積んだり遊びに出かけて友情を深めるべく努めた。
「また背が伸びたな、アルフレット」
「君も逞しくなったじゃないか、ルーカス。見違えたよ」
そして子供時代の純粋さと若さは、努力を確実に結実させていった。
大人と子供、崇高と下世話、高貴と下賤、凡俗の間を行き来し、屋敷とオーディンの街と郊外、お館様や家宰様のお屋敷、ブルーノの実家の荘園や父上母上の郷里とを往復して過ごす三週間が過ぎ、休暇が一週間を残すのみとなるころには俺の背丈は休みが始まる前から拳二つ分ほども伸び、ルドルフ大帝の銅像にはまだ遠く及ばぬものの手足も胸も逞しさを増していた。読破した書物──ブルーノの愛読する『少年探偵ライヘンバッハ』や『戦士ゲオルグの槍』、天才フリューゲルの一代記も含む──と知己の数も一日ごとに増え、俺の世界は大きく広がった。
だがまだ俺は満足していなかった。
原作のラインハルトや主要な登場人物ほどに気力は充実しているとは思えなかったし、人脈もまだまだ広いとは言えない。一門の方々やルーカスたちは門閥に属しているとはいえせいぜい中級貴族、ブルーノは俺より少し上ではあるが下級貴族にすぎない。フォン・シェーンコップやフォン・ワイツもそうだ。有力な人脈ではあるし実務担当者として相応の実力者であることは文通をするうちに分かったが、本人の身分が低いことに変わりはない。
下級貴族である帝国騎士と爵位持ち
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