4部分:第四章
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第四章
「浮気者の言うことは信じられないわ」
「信じてくれないんだ」
「また可愛い女の子に声をかけてたんでしょう」
「それは濡れ衣だね」
「断言できるのね」
「するよ。何度でもね」
本当に余裕の感じで私に言ってくる。
「今は君だけだよ」
「言い切ったわね」
「遊んでたらもっと遅いさ」
今度はこんなことを言ってきた。
「違う?それは」
「そうね。それじゃあね」
私はここでやっと振り向いた。そうしてだった。
そのダンディと言っていい彼を見てだ。くすりと笑ってみせた。
見れば彼も楽しげに微笑んでいる。その笑みで私に言ってくる。
「信じてあげるわ」
「信じてもらって嬉しいよ」
「今回はね」
話は限定してみせた。それからだった。
私からだ。こんなことも言ってみせた。
「そうしてあげるわ。今だけはね」
「厳しいね。どうにも」
「あえてそうしてるのよ」
実は私以外にも相手はいるのは知っている。とにかく遊び人の彼は何人かそうした相手はいる。私もそのことを承知して付き合っている。
だからだ。私は彼にさらに話した。
「わかってくれるかしら」
「わかったよ」
今の言葉は信じない。
「それじゃあそうするからね」
「そうしてね。後はね」
「後は?」
「踊るのよね」
私からもこの話をしてみせた。
「そうよね。今から」
「うん。それじゃあね」
「行きましょう」
丁度ここで飲んだ。そのピンキーフィズを。
そのうえでだ。彼をそれに誘った。
「もう少しではじまるわ」
「あれっ、今日は結構積極的だね」
「貴方から誘ったんじゃなくて?」
「ははは、そうだったかな」
ここではとぼけてみせる彼だった。これもいつものことだ。
「まあいいさ。それじゃあね」
「踊るのね。タンゴを」
「そうしようか。それじゃあね」
「悪い男ね」
二人で立ち上がりながら。また私は彼に言った。
「本当に」
「そう言うんだ」
「昼は真面目なふりをしていて夜に素顔を見せる」
これが彼だった。遊び人の。
「悪くないと言えるのかしら」
「確かに。言われてみれば」
「けれど私もね」
「君も?」
「悪い女ね」
微笑んでみせて。彼に言ってみせた。
「その貴方と一緒にいるのだから」
「悪い男と付き合うのは悪い女という訳だね」
「それならもっと悪くなってみせるわ」
微笑みに妖しいものも入れてみせてだった。
「堕ちてみせるわ」
「じゃあ今から踊ろうか」
「今からね」
こう話して。二人で手を取り合って。
私達はタンゴを踊った。そのタンゴはこれまで踊ったのよりも熱いものだった。その熱いダンスの中で。私達は夜を過ごした。妖しく悪い夜を。
TANGO NOIR 完
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