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授業なんてどうでもいい、なくてもいい
多田くんはーー
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しては珍しく、真面目な調子で素直に謝ったという。

 「悪いのは全部俺なんだから多田は気にしなくていいっつったんだけどな。ああ見えてアイツ、他人思いだから」

 そんな気はしていた。だからこそ、多田くんは『アイツ』と私をどうにかしようとしているのだ。本当に『アイツ』は誰なんだろうか。

 照原くんなら知っているかもしれない。

 「ねえ、照原くん。多田くんが他人思いって言ったけど、最近も何か誰かの悩みを聞いたりしてるの?」

 「ん?ああ……そうみたいだぜ」

 倫子が「へえ」と目を大きくさせた。倫子も知らないようだ。

 「それ気になるけど、なんかトイレ行きたいから行ってくる。私来るまで別の話題で盛り上がっといて」

 勝手な話だ。倫子は何度も「待っててよ」と念押ししながら病室を出て行った。足音が完全に消えた後、私は小さい声で呟いた。

 「で、誰なの。多田くんが相談に乗ってる相手って」

 結局待たないのかよ、と照原くんは楽しげに口元を緩ませた。

 「多田はそういうの知られたくない人だから、黙っとけよ?」

 それにしては口が軽いと思うけれど。私は放課後に見た多田くんの慌てた表情を思い出した。嘘もヘタクソだった。あんな態度では、怪しいと思わない方が単純なレベルだ。

 照原くんがニヤリと笑って口を開いた。


 「俺だよ」

 「え?」

 どういうことだ。多田くんの言った『アイツ』が照原くん?

 私が会話のテンポに追い着けずにいたとき、照原くんが私の顔を見て言った。

 「俺は三ツ橋が好きだ。だから多田に相談して、間に入ってもらった」

 病室から音という音が消え失せた。風が揺さぶる木々の擦れも、小鳥がさえずる可愛らしい声も、部屋越しに聞こえる誰かの足音も。それは、私の思考がストップしているからなのだと、やがて気づいた。

 照原くんが視線を自分の足下に落とした。

 「俺と三ツ橋はそんなに喋る間柄じゃないから、用もなくいきなり話しかけるのは変だろ。そこで3年間同じクラスの多田を使ったんだよ」

 照原くんの言葉は頭ごなしに聞いていて、私は自然と多田くんとの放課後を振り返っていた。

 私がマニュアル人間だと言い当て、それを直すと宣言した4月15日。疑念しかない展開と多田くんの『お前好きなやついんの?』の一言。

 バーベキューのメンバーに桐山くんがいたこと。

 掃除中に繰り返される多田くんと照原くんの反射神経ごっこ。ちょっとした出来事の後の照原くんとの会話。

 「アイツ」という単語を出して私の意識をそこに引き付けた数日前。

 多田くんは全部分かっていたらしい。その上で照原くんの頼みに乗り、私の様子を窺っていたのだろう。私が気になって
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