暁 〜小説投稿サイト〜
授業なんてどうでもいい、なくてもいい
多田くんはーー
[2/5]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
応をせねばならんぞ!」

 「対応っていうのは?」

 「桐山氏に嫌われないよう、人気アイドル本山由実ちゃんのスカートヒラリー券をプレゼントするぜよ!」

 「いらねえよそんなもん」

 「しぇえええ!!」

 リビングがどっと沸く。桐山くんとはほぼ毎日顔を合わせているのに、とても新鮮な気分だった。けれど、私は斜め前に座る桐山くんの苦笑いする顔を見ながら、なぜか枯渇したような気分に駆られていた。

*****

 てっきりバーベキューは庭でやるのかと思っていたが、そうではなかった。多田くんが向かった先は、5階の屋上だった。すでにバーベキューの体裁が整えられており、後は手分けして動いて食べるだけだった。

 各人それぞれブレザーを脱いだりシャツに着替えたりする中で、多田くんが私の横にすっと立った。顔を上げると、多田くんは自信ありげな笑みを湛えていた。

 「どうしたの、多田くん」

 「本番だぜ三ツ橋。あの攻略書、ちゃんと読んで頭に刷り込んだ?」

 もちろんだ。書いてある内容を噛み締めて、イメージトレーニングも繰り返した。自分が動く軌道を何度も何度も確認した。後は実戦で吐き出すのみだ。

 でも、私は多田くんに聞きたいことがある。『アイツ』って誰なの、という質問。これまで何回か多田くんに話しかけようとした。しかし、その度に多田くんは何かを察したように私の近くから姿を消した。結局、その答えは知らないままである。今がチャンスだ。私はそう思った。

 「ねえ、多田くん……」

 「ちょっ、おいバカ!」

 多田くんが慌てた声を上げたのはそのときだった。彼の視線を辿り、私は思わず言葉を失った。

 「うおおおおぉぉあああっつ!」

 照原くんが燃えていた。正確にいえば、服と頭が燃えていた。

 「おい早く服脱げ!」

 火はまだ小規模だが、時間に比例してどんどん燃え上がる。火はあらゆる物を躊躇なく、冷徹なまでに黒焦げにしてしまう。

 急いで周囲を見渡した。完璧に揃っていると思われたバーベキューセットだが、肝心の水がなかった。飲み物もまだ出していないようだ。もう一度辺りをくまなく見回すが、火を消せるような物は見当たらなかった。どうする。どうすればいい。

 照原くんが必死にもがいて服を脱ごうとしている。だが、その動きはおぼつかない。それを見た瞬間、私の中で何かが光った。

 私は踵を返して走り出した。「三ツ橋!」という多田くんの声が背後から聞こえる。だが、私の取ろうとしている行動が分かったのか、多田くんは声を張り上げた。

 「照原!服千切ってうつ伏せになれ!」

 そうだ。合っている。私が目指しているのはそれだ。

 私は鉄柵付近に並んでいる植木鉢に手をかけた。そし
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ