多田くんは意外と真面目らしい
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さりと浮かび上がった。
「おーい、どうした?炭酸の抜けたまずいサイダーみたいな顔になってんぞ」
そんな顔はしていない。私は顔に動揺を出さず、淡々とした調子で黒板の字を撮った。まさか、同じクラスの不良が私の脳内に渦巻く悪循環の腫瘍を消してくれるなんて思ってもみなかった。
私は素直にお礼を述べた。
「ありがとう。毎晩読んでから寝るよ」
「おう、ぜひそうしてくれ。いやあ、三ツ橋の素直な態度見るの久々だなあ」
「久々も何も、話すようになってからそんなに日は経ってないじゃん」
「そういうツンツンしたところが良いのかなあ、アイツは」
何を言っているんだろう。私が多田くんをまじまじと見ていると、彼は失敗したように「あっ」と漏らして固まった。私たちは互いに何も発さず、教室に広がる空白を噛み締めていた。
やがて、多田くんがポツリと言った。
「……アイツって、誰のこと?」
「知らないよ。ていうか、多田くんが言ったんじゃない」
「あー、たぶん三ツ橋の気のせい。彼氏欲しすぎて幻聴が聞こえたんだよ、たぶん。彼氏募集中ってやつだ、うん。あーっとそうだ。俺これからハトに餌やらねえといけないんだわ。駅前で待ってんだよ。んじゃ、しっかりマニュアル人間直せよじゃあなー」
口を開く隙を一切与えずに、多田先生は引きつった笑みを湛えながらダッシュで教室を出て行った。利害が一致しているだけの私たちなのに、どうして彼がとっとと退散するんだ。自己中にも程がある。まあ、テンパっているのは目に見えていたから深く責めるつもりはないけれど。あんなに嘘が下手なんじゃ、二股とかはできないだろうな、多田くんは。
一人残った私は、やはり隣席を見てしまった。『アイツ』は誰なんだろう。私はどう関係しているんだろう。多田くんはどんな人とも仲良く喋るから特定するのは難しい。でも、多田くんのあの言葉はいったい――。
目を閉じて、ふうと長い息を吐き出す。一人で悩んでも仕方ない。顔を上げた私はバッグを肩に提げて、毅然とした足取りで教室を後にした。
校舎を出て、放課後の陽が眩しく照りつける校庭を眺めた。野球部が真ん中で練習している。先輩が後輩のノックを指導している最中だった。その中に、私は桐山くんの姿を捉えた。彼は後輩を厳しく叱ったり、パシリにしたりするタイプではない。本人がそう言っていた。『俺は人に偉そうな顔をする前に、自分をしっかりしないといけないんだ』。真面目なんだなあ、と意外な一面に驚き、印象に残った。それは去年の5月、初めて話したときのことだった。
あれからもう少しで1年が経とうとする。クラスでの私と桐山くんは赤の他人以上友達未満をずっと延長したままで、数直線の数値が動く気配はない。どうすれば数値は
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