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君のため(仮)
自我
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と、そして、初めて自分の自我が安定した気がした。

 
 そしてこの春、親の反対を押し切って、東京の大学に進学した。

 東京、八王子にあることが、その大学を選んだ理由だった。

 大学に入って最初のまとまった休みである5月の連休に、ここ、五稜郭に来ることは、進学先の大学を選んだ時点で決まっていた。

 




 「…ごめんな」

 男は、誰に聞こえるでもなく、つぶやいた。

 自分が、一生をかけて大将にしてやる、と心した男は、自らの手をすり抜け、江戸で斬首となった。

 弟のようにかわいがっていた剣の天才も、途中で、まるで捨てるようなかたちで、別れてしまった。

 自分が作り上げてきた最大の作品「新選組」のために、斬ってきた人間の影が、今も脳裏にちらつく。


 「(…俺は、いったい誰なんだろうか)」

 過去の人格と現在の人格が混ざり合う、奇妙な感覚は、泥で濁り切った底なし沼に引きずりこまれる感覚に似ているかもしれない、と思う。

 一度、完全に飲まれてしまえば、もう二度と青空を見て、息つぐことはできないだろう、と。



 男は、深く、深く呼吸をする。

 集中して神経を研ぎ澄ませていけば、周囲の喧騒も聞こえなくなる。

 深く、深く、水の中に潜り込んでいくような、この感覚を、男は好んだ。















 そうして、どれくらいの時間がたったのか。

 目を閉じる前は高かったはずの太陽が、もう傾きかけていた。

 腕にしている時計にちらり、と目をやると、もう3時間ほどがたっていた。

 思わず、苦笑する。

 3時間もここにたっていたら、ただの不審者だ。

 男は、一度大きく伸びをすると、歩き出した。





 「(俺が、誰かだって?そんなの、わかりきったことじゃねえか)」

 

 「(俺は、○○○○、だ))









 

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