暁 〜小説投稿サイト〜
世界最年少のプロゲーマーが女性の世界に
16話
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見られているか理解しているし、何を望まれているか分かっているつもりだ。看板を背負わせられた身としては応える義務などない。が、人は集団の中で生きなくてはならない、を持論としている千冬は必要であるなら応え続けようと考える。窮屈だと感じることは多々あるが弟の前ではそれを遵守するつもりだ。

 ワイシャツにスカート姿になった千冬は冷蔵庫を開き、これでもかと詰め込まれたロングタイプの缶ビールを1本取り出す。
 
 手慣れた様子で右手の親指と中指で缶を挟み、人差し指でプルタブを開ける。溢れそうになる中身をそのまま口につけて勢いよく身体に流し込む。冷えた炭酸飲料が全身に染み渡る。仕事終わりのこれは止められそうにない、と千冬は心の中で苦笑する。

「……ふぅ」

 中身を半分以上飲み干し、少し落ち着いたのか熱のある吐息を零す。

 テーブルの前に置いてある座椅子に座り込み、その上に鎮座しているノートパソコンの電源を立ち上げる。残った仕事を片付ける、というわけではない。

 自分の友人である束と話してから千冬はその言葉が脳裏から離れなかった。

 月夜 鬼一の今の姿は全て、彼の本質から生み出た歪んだ副産物でしかないことを。戦いを重いものとして扱う姿も、人を容赦なく傷つける姿も、利用できるものは利用して勝利に近づこうとする姿も、全部月夜 鬼一という人間の極一部でしかない。

 ノートパソコンを操作し、鬼一の今回の試合を映し出す。そして、セシリア戦前のあの集中していた姿と教室でセシリアに啖呵を切った姿を思い出す。そして、普段の鬼一の姿を重ね合わせ、そのあとの一夏戦で見せた姿と比較する。

「……多分、あれが月夜の表の顔なんだろうな」

 IS学園で日常的に見せている顔とセシリア戦で見せた顔をそう結論づける。

 そして映像を1度停止させ今度はインターネットに接続して、検索サイトに『月夜 鬼一』と打ち込む。そこに出てくる膨大な情報。流石に1つの分野の頂点に立てば、ファンであろうとなかろうとその情報を取り扱う人は非常に多い。

 何か月夜 鬼一という存在を知るヒントはないのだろうか? そんな思いで調べてみた。

 様々なサイトを渡り歩いている内に千冬は1つのホームページに辿り着く。

 ―――月夜 鬼一 現在 14歳 アークキャッツ所属 元プロゲーマー 2人目の男性操縦者。

 ―――第3回 ワールドリーグの優勝者であり最年少世界王者。そしてe-Sportsの申し子、勝負の『鬼』として尊敬を集めている。

 ―――国別対抗戦では選ばれた7人の内の1人であり、日本の尖兵として勝利に貢献。決勝戦では事故で出場に間に合わなかった柿原やアヤネに変わり、大将で出場。その際のレイアン氏との死闘は今でも鮮明に覚えている人は多いだろう。
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