第七話 仮面舞踏会だよミューゼル退治 そのB
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ずがない。だが、官僚として企業家、そして伯爵家の重臣として容赦のない現実と向き合ってきた大人の男の力ある視線に俺の十代前半の少年の部分はたじろいだ。それでも、ここで退くわけにはいかない。俺は肉体よりは多少年上である精神の力を総動員して踏みとどまり、言葉を続けた。
「騎士会館に収められる公報に載る者は無論、国政を委ねられた国務尚書閣下が信頼する秘書官殿が特筆するほどの者であれば、よもや間違いはありますま…ありえないでしょう」
「……ゴットリープ・メックリンガーと息子は花言葉には詳しいだろう。優れた詩人で音楽家だとは聞いている。だが、園芸に造詣が深いとは聞かないね」
「ですが、皇妃陛下の蘭の美しさを称えるには、この上ない人物かと」
「なるほど。だが枯れた蘭の悲しさを奏でることになっては、我々も彼らも悲しむべきことになる」
「ヴァルディ・ヴァーツェル・ミッターマイヤーとジークムント・キルヒアイスの技量が皇妃陛下の蘭に費やされるとしても、ですか?」
家宰様の黒い瞳から目を離さずにいるのも、重みのある言葉と鋭い警告に挫けず、言葉を返すのも十代の少年に過ぎない俺にとっては百億の敵と大会戦を戦うのと同じくらいの苦行だった。
俺がヴァルディ・ヴァーツェル・ミッターマイヤーとジークムント・キルヒアイスの名前を出し、個人資料を収めたデータカードを渡してからの数分間、次の間に姿を消したヘスラーがマールバッハ家の紋章入りのファイルを持って戻るまでの短い時間は疑いと出しゃばりへの叱責のこめられた父上やフォン・クナップシュタインの視線も加わり、氷河の惑星で叛徒と百年対峙するほうが楽かもしれないと思えたほどの辛い時間になった。
「…トラウゴット・シューマンより優れていると確信できたら、お館様に推挙して召抱えていただけるよう取り計らおう。君はいつも、私を驚かせてくれる」
「…ありがとうございます」
戻ってきたヘスラーが家宰様に耳打ちし、家宰様がお抱えの庭師の名前を出してうなずいたとき、消耗した俺はまたしても、そう言って頭を下げるしかなかった。下級貴族だ平民上がりと言っても、経験を積み勝利を重ねた大人の男の圧力は立ち向かうだけでも力がいる。十代の半ばや後半でそんな圧力をはねのけ続けたラインハルトの力量がいかに巨大なものだったか間接的に理解させられ、俺は無力感に苛まれていた。
そんな凄すぎる奴を潰して居場所を守り、なおかつ権謀術数や人間力ではそのラインハルトをも上回るであろう怪物たちの中で生きていく未来のためには限界を超えて力もつけなければ。
「アルフレットは強いな。真の騎士とは君のような者のことを言うのだろう」
動き出した計画に加わるには身分も経験も何もかも不足という理由で一足先に退出させられた別室で感じ入ったブルーノに曖昧な返事を返しなが
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