第七話 仮面舞踏会だよミューゼル退治 そのB
[6/9]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
る、マールバッハ一門を試す試験だった。言葉通り、蘭の鉢植え一つ献上して済ませられるなどと考えれば、訪れかけた春は再び冬に逆戻りするだろう。
皇妃陛下の本意は鉢植えを見たいというだけのことかもしれないが、貴族社会の常識に照らせば、『マールバッハ家の荘園の一つを皇妃陛下がご所望されている』と解釈する、遠回しにでも命じられる前に自発的に献上するのが正解だということを約十年の郎党教育で俺は教わっていた。
献上するのもただ献上するだけでは気が利かないと見なされる。
紫色の蘭の花を所望されれば、金色の蘭の花つまり献上金を添えて献上するのは当然であり、紫色の蘭を愛でる環境も手入れする道具一式も献上する側が整えてしかるべきなのだ。手入れをする道具一式とはつまり荘園に奉仕する農奴から庭師、園芸の専門家といった物を言う道具である。
前よりも美しくして献上し、献上した後も最高の状態が続くように手配する。ここまで遺漏なく整えて初めて合格点なのだ。最高の状態が続くように手配するというのが皇妃陛下の側近たちがマールバッハ家への嫉妬心から荘園を荒らしたりしないよう、側近たちにも十分な献金をするという意味であることは言うまでもない。
「荘園を献上することは問題ない。残った荘園だけでも、お家がたちゆかなくなるということはない。だが問題は人だ」
お屋敷へと向かう地上車の車内で心当たりを当たりながら、お屋敷の長い廊下を早足で歩きながら、父上はかなり真剣に悩んでいる様子だった。ヘスラーに出迎えられ家宰様の執務室でお茶を勧められても、表情が緩むことはなかった。
それも当然と言えば当然である。
父上は商売上、立場上必要な教養として園芸の知識も身につけていることはいる。だが専門の庭師ではないし園芸の専門家というわけでもない。身につけた知識も、家宰様が最近マールバッハ家の三女である奥方様のために庭園の造営に凝っているという情報を得てから学んだ老いの学問付け焼刃という水準。庭師や園芸の愛好家の知り合いもなんとか格好がつく水準の者とそれなりに付き合っているだけで、皇妃陛下に献上する荘園に仕えることができそうな技量、資格の持ち主と知己はなかった。
「伯父上の領地まで探させてはいるが、来年の開花時期までに人員を整えるのは難しそうだ」
園芸に疎いのはブルーノの父上『銀の拍車の騎士』──『銀の拍車の騎士』とは帝国騎士として一人前とされる格で、わずかながら荘園も与えられ旦那様ではなくご領主様、お館様と呼ばれる資格を持つ──フォン・クナップシュタインも同じだった。マールバッハ一門が繁栄を取り戻すまでは本家のご当主とともに軍人として宇宙軍に奉職していた根っからの軍官僚、言っては悪いが無粋で真面目なフォン・クナップシュタインには父上以上に、典雅な趣味ご令嬢御婦人の領域、そこで働く平民に
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ