第七話 仮面舞踏会だよミューゼル退治 そのB
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出来事を前倒しに起こそうと企てるに至るのに、時間はかからなかった。そして、遠い未来の出来事のはずだった己の最期を手元に引き寄せてしまうのにも。
皇太子が同志を募って最初の会合を開いた三日後、クロプシュトック侯が逼塞の間に貴族社会の影の部分のみならず帝国の日の当らない領域の多くの部分に張り巡らせた根から吸い上げた一滴の水滴が侯爵の手元に届いた時、勝敗は決した。
『皇太子殿下の手の者が鍛冶屋に短剣を注文した』
クロプシュトック家の下僕の一人が懇意にしている靴磨きの乞食の仲間から乞食、乞食から下僕、下僕から従者、従者から執事、執事から家令と段階を経て精度を増しつつ侯爵の下に届いた、常日頃であれば無視しうる情報は即座に皇帝陛下のもとにもたらされると、時を移すことなく勅書の姿を取った死神の鎌となって皇太子殿下の心臓に突き刺さった。
『勅命である。ルードヴィヒ殿下に死を賜る。格別のご慈愛により家族の礼をもって、その葬礼をなすであろう』
皇太子の地位も皇族の身分も否定されたルードヴィヒ元皇太子がクロプシュトック侯や義絶を宣言して連座を逃れた義弟二人、つまりブラウンシュバイク公とリッテンハイム侯、そして皇妃陛下の代理人フォン・シェーンコップらの立ち合い人が見守る中自裁を遂げ、支持者が死刑台や流刑地に送られ宮廷の内外に吹き荒れた嵐が収まると、すぐさま彼らの座っていた空席の補充が行われた。
このとき復活したのはクロプシュトック侯の引き立て──背後に二人の娘婿を牽制したい皇帝陛下の意志があったことはまず間違いないだろう──もあって旧クレメンツ派の貴族が多かった。
未だ復活途上であったマールバッハ家にもポストが回ってきた。お館様はまだ士官学校の学生なので、隠居していた──正確には、させられていた──先代様が学芸省の学術審議会の参事官になった。
幼年学校の春の休暇の初日のことである。
学術審議会参事官、つまるところ名誉職であり、実権を伴うポストではない。
『小遣いぐらい稼がせてやるばう、ということだばう』
『かっこつける見せ金ぐらいは持たせてやるがう、ということだがう』
『俺様も優しいねえ。貴族失格のどらぼっちゃんに雛壇に大人しく並んでりゃ小銭が入る仕事を紹介してやるんだから』
翌日休暇最初の日の屋敷でいつの間にか夕食の席に座ってフリカッセを貪り食らっていた悪魔とゆかいなしもべのハスキーたち──『偽名を名乗る作者分身 ヴィクトール・フォン・フランケンシュタイン』『ゆかいなしもべ バウ』『ゆかいなしもべ ガウ』とかたや明らかに偽名、かたや手抜き以外の何物でもない名前の字幕テロップ付きで出現しやがった──、夕食の雰囲気をぶち壊しにしてくれたお邪魔虫どもに解説してもらうまでもなく、先代様への隠居料代わりだということは俺にも分かった。
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