第七話 仮面舞踏会だよミューゼル退治 そのB
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いきなり情けない話をするのもなんなので、ここでこの数年帝国で起こった大事件そして俺の周囲に起こった事件、おそらくこの厚遇の発端となったであろう事件について語ろう。
帝国暦四七〇年代中期最大の大事件は、なんといってもベーネミュンデ侯爵夫人シュザンナの懐妊と男子出生であろう。
帝国暦四七四年初春、家宰様がミューゼル家に援助を申し出て断られたその同じ日に、皇帝陛下の寵妃ベーネミュンデ侯爵夫人が男子を出生した。
男子つまり皇子である。
皇子の誕生は当然のことながら、宮廷の勢力地図を激変させることとなる。アレクサンデルと名付けられた皇子が命名式を終えるやシュザンナは勅令をもって侯爵夫人から皇妃に進められ、カイザーリンと尊称され後宮において皇后陛下に次ぐ地位を認められることとなった。そして、権力の中枢は皇太子殿下と皇后陛下所生の皇女たちを妻とする門閥貴族の当主たちから皇妃陛下を取り巻く貴族たちへとゆっくりと移動し始めた。
この好機に動いたのがクロプシュトック侯爵ウィルヘルムである。
かつて皇帝陛下の弟であるクレメンツ大公を支持していた経緯から逼塞させられていたクロプシュトック侯は皇子の出生を復権の好機ととらえた。
秘蔵の名画を皇妃陛下を通じて皇帝陛下に献上し、皇妃陛下本人や側近たちに莫大な贈り物をして社交界への復帰を懇願した。かつて自分を嘲り罵った大貴族が地にすりつくほどに頭を低くして懇願する姿は皇帝陛下に大いに溜飲を下げさせたのであろう。寵愛する皇妃の口添えがあったとあればなおさらである。数週間を待たずして、クロプシュトック侯の館には皇帝陛下主催の舞踏会への招待状が届くこととなった。
数十年にわたる逼塞を解かれて社交界に復帰を果たした侯爵が皇妃陛下、ひいては皇帝陛下の忠臣となったことは解説を要さない。
これだけでも大事件なのだがさらに慶事は続き、宮廷は踊る。
皇妃陛下がその後数ヵ月を経ずして懐妊し、今年の初めに誕生と同時にベーネミュンデ侯爵マクシミリアンとなった息子を白磁の腕に抱いたとき、宮廷の勢力図は目に見えて変わった。
皇妃陛下との間の三人目の息子にラインハルトと名付けることを約束したその床で、皇帝陛下は能力はあるが何かと意に背くことの多い皇太子殿下を廃しアレクサンデル大公を新たな皇太子に立てることをも皇妃陛下に確約したのである。
専制国家において、漠然としていた君主の意志が明確になるということの意味は良くも悪くも極めて大きい。
翌日から皇妃陛下と幼い皇子殿下のもとには拝謁を求める者が引きもきらず、未だ次代の皇帝であるはずの皇太子殿下は急速に忘れられた存在となっていった。
忘れ去られる一方で皇帝陛下と側近たちを発生源とする有形無形の圧力を加えられた皇太子殿下が遠いか近いか、いずれにせよ未来である
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