第七話 仮面舞踏会だよミューゼル退治 そのB
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や平民の子弟は門閥貴族の子弟のおまけで入れてもらえているにすぎず、目立ち過ぎて目をつけられれば災いを招く。何よりうまく負けてやればコネ作りに役に立つ──普通科目も、原作のグリルパルツァーが修めていた地質学などの選択制の高等科目も、そして様々な『貴族のたしなみ』といった勉学と訓練に精励していた。
ブルーノやホルストと時にまずい食事と門閥貴族の生徒の横暴、教官の権高さの悪口を言い、時に喧嘩をしたりしながら何の特別待遇も受けることなく、野望以外は、いや野望込みでも汗と埃にまみれて学生生活を送っていたのだ。
が。
二年生の春の休暇を終えて幼年学校に戻ると、俺の世界は一変していた。
一般候補生用の二人部屋の半分を占めていた俺の荷物は門閥貴族の子弟用の豪華な家具調度とメイドつきの特別室に全て移されていた。
「…誰に話を通してもらったんだ、アルフ?俺もあやかりたいぜ」
「俺が知るかよ」
ホルストに羨望と嫉妬と敵意が三分の一ずつ混じった視線を投げつけられながら部屋を移ると、すぐにその理由は判明した。寮監と監督生の顔に答えははっきりと書かれていた。構築途中の人脈を断ち切られてはたまらないのでフォン・シェーンコップやフォン・ワイツからの手紙は鞄の奥にしまっていたのだが、長い時間列車に揺られて警戒心が薄れて間抜けをやらかしたか、それともあの悪魔の仕業か。どうやら待機時間の所持品検査か何かで見つかったらしい。皇帝陛下の第一の寵妃皇妃シュザンナ陛下の執事やリヒテンラーデ一門の総帥、官界の黒幕になりつつあるリヒテンラーデ侯爵の信頼する秘書官の名前が見つかれば、当然そうなるだろう。
マールバッハ伯爵の引き立てで出世した家の子、さらに皇妃陛下やリヒテンラーデ侯爵と繋がりがあると思われれば、たかだか中堅どころの男爵の校長やその下の教官たちには平の帝国騎士扱いなんて怖くてできはしない。
実際にはまだ数回手紙のやり取りをかわしただけ、これから本格的に文通し、うまくいけば実際に会って教えを受けようというところなのだが、門閥のマールバッハ家と実力者のロイエンタール伯爵という保証人がいる以上彼らにとっては実用レベルのコネが『すでにある』のと同じなのだろう。
保証人があり、なおかつ数年後には皇后に冊立されることを約束された皇妃シュザンナの執事にリヒテンラーデ侯爵の秘書官と音信のやりとりをしている。貴族社会の常識からいけば、これだけでも将来の地位は約束されたも同然だ。
うまく立ち回れば軍での地位だけでなく、男爵子爵ぐらいの爵位をいただくことすら可能かもしれない。
うまくいったといえばいった、労せずしてコネ作りミッション達成、なのだろうが、俺は何となく釈然としない気分だった。
数週間後にこの厚遇のもう一つの理由、溜息をつきたくなるような理由を知るまでは。
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