五十七話:正義の敵
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離れている。痛みに喘ぐ患者にモルヒネを打ち続けるだけで根本から解決するのなら医者はいらない。結局、彼が切望した弱者の救済は永遠に図られることがなくなるのだ、彼自身の手によって。
「……それでも、争いが無くなれば人は新たな段階へと進める。そういった差別でさえ不老不死になれば無くす術を模索することができる。人類全てで救済の道を歩くことができるんだ」
「まあ、それなら本当に幸せな世界になるかもしれんな。みんながみんな一緒の方を向いてくれればやけど」
皮肉気にはやてはぼやく。全人類が足並みを揃えることができれば争いをなくすことも差別をなくすこともできる。だが、それはすべての人類を不老不死にすること以上に難しいことであろう。しかも人類の数が爆発的に増えた状態となるとハードルは空よりも高くなる。そもそも、それができるのなら人類を不老不死にする必要などない。できないから強制的な不老不死という外法に縋らざるを得なかったのだ。切嗣の理論は矛盾している。
「おとん、ここでハッキリと言っとこうか? どんなに立派な正義を掲げたところでおとんに世界を―――救う資格はない」
その言葉は切嗣の生涯の中でも最も大きな衝撃を与えた。ここまではっきりと自身を否定されたことは初めてだ。衛宮切嗣には世界を救う資格などない。今まで救えたものを見捨ててきたのだ。元より資格などあるはずがない。そんなことは分かりきっていたことだ。だが、己が思うのとこうして言葉にして言われるのでは衝撃が違う。
「どうして……そう思うんだい?」
「私が言わんとあかん? アインスも分かっとるんやない?」
「アインス?」
切嗣は不安げな表情でアインスを見つめる。彼女だけは味方であって欲しかった。身勝手な願いだとは理解している。自分は彼女を守る気などないくせに彼女からの温もりを求めている。省みるまでもない、自分は最低の男だ。
「……お前はこのまま進めばいい。私はその全てを肯定するだけだ」
だというのに彼女はその最低の男の手を優しく握ってくれる。その様子を複雑そうな目ではやては見つめる。
「それでええんか、アインス? おとんの行いはただの自己満足で誰も望まない贖罪や」
「私はただ願いを叶えるだけです。私に人としての幸せを教えてくれた男のために」
淀みのない言葉で答えるアインス。しかし、それだけでははやてもツヴァイも納得などしない。なおも止めるために声をかけ続ける。
「そんでも、人類を不老不死にするのはええとしても―――アインス達は含まれんやん」
そう言ってはやては決して離しはしないとでもいうようにツヴァイの頭を優しく撫でる。一方の切嗣は隣にいるアインスの顔を見ることもできずに凍り付く。どれだけ人間に近づこうとも彼女達
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