第三十一話 研修先でもその十一
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「女の人みたいじゃない、本当に」
「自分ではそうは思わないんですけれど」
「凄いわよ、鏡で見てみたら?」
「ええと、鏡は」
「はい、これ」
制服のポケットの裏側に入れてある小さい鏡を出して渡します。それで自分の顔を見た阿波野君の感想はといいますと。
「本当に僕じゃないみたいですね」
「そうでしょ?誰かって思ったわよ」
「女の人みたいですね」
「女装とか意外と似合うの?まさか」
「こういうのはじめてなんですけれどね」
自分でもまんざらじゃない感じです。
「けれど女形って好きですから」
「そうだったの」
「その玉三郎さんとか雀右衛門さんとか」
やっぱり歌舞伎に詳しいです。
「秀太郎さんも好きですしあと昔だと歌右衛門さんなんか凄かったですよね」
「それ八条グループの会長さんに言ったら喜んで頂けるわよ」
「そうなんですか」
「多分ね。それにしても」
遊郭の外に出て阿波野君を見てみますと。普段でも背が高いのに高下駄のせいで余計に高くなって。私がさらに小さくなってしまったみたいです。
「背がまた大きくなってるし」
「変わらないですよ」
「それはわかってるけれど」
それでもです。そしてその花魁さんの格好を見てふと気付いたのですが。
「これって誰かの格好なの?」
「揚巻ですよ」
随分と美味しそうな名前です。
「助六の」
「歌舞伎なの?それも」
「ええ、さっきお話しましたよね」
「あれね」
阿波野君のさっきの話をここで思い出しました。
「あの江戸を舞台としたってあれね」
「そう、その作品のヒロインなんですよ」
「それはわかったけれど随分変わった名前ね」
「変わってるのは名前だけじゃないですよ」
こうも言ってきました。
「江戸が舞台ですけれど時代は鎌倉時代ってことになってますし」
「それってどういうこと?」6
話がさっぱりわかりません。江戸が舞台なのに時代が鎌倉時代って。聞いていて頭の中がこんがらがってしまいそうになりました。
「鎌倉時代に江戸はないじゃない」
「歌舞伎は江戸時代はしないんですよ」
「そうだったの?」
「そうなんですよ。服や街並みが江戸時代でもあくまで時代は違うんです」
こんな強引な設定があるでしょうか。東映の特撮ものや時代劇を見ていると時々主人公達がいきなり出て来て何でここにいるのかしら、って思うことがありますが。
「ですから助六は鎌倉時代なんですよ」
「そうなるの」
「忠臣蔵なんか歌舞伎じゃ室町時代なんですよ」
「忠臣蔵が室町時代!?」
これまた物凄い話でした。
「何、それ」
「何それって言われましてもそうなってるんですよ」
阿波野君は答えるのでした。
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