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魔法少女リリカルなのはStrikers〜誰が為に槍は振るわれる〜
第一章 夢追い人
第9話 とあるスパイを自称する陸曹の日常
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 雨が、降っていた。
 とても、とても、冷たい雨が。
 その中に身を晒し、腹を切り裂かれ虫の息で横たわる少年と、それを無表情で見下ろす少年を見ながら、青年は思った。

 あぁ、これは夢か、と。

 青年が今見ているこの光景は、過去に彼の身にあったこと。
 しかし彼がこれを夢だと思ったのは、この光景が彼の記憶にあるものだからではない。
 青年はたまに考えることがあるのだ。自分はもしかしたら、実はまだ過去のどこかで眠り続けていて、今の自分の周りの景色はその眠りの中で見ている夢なのではないかと。
 それほどまでに今の彼の周りの環境は、彼にとって不自然で、不可思議で、そして――不気味なのだ。

 ならなぜ彼は、目の前のこの光景を夢だと思ったのか。
 その答えを示すように、二人の少年が口を開いた。

「雨……冷たい、な……」
「……つめたい、とは、なんなのでしょうか、マイロード?」

 見下ろす少年の答えに血の泡を口の端から吐き出しながら笑う少年に、なにが可笑しいのか分からず無表情なままの少年は首を傾げる。
 この二人のやり取りが、全てを物語っていた。

 このときの少年(せいねん)は、知らなかったのだ。
 “冷たい”というのが、一体どういう意味の言葉なのかを。
 だが二人を見下ろす青年は、この雨が“冷たい”のだと言うことができる。
 
 だからこれは夢なのだ。
 もう、二度と取り返せない、取り戻せない、過去(ゆめ)なのだ。

 その過去(ゆめ)の中で青年の記憶の通りに、虫の息の少年は、無表情の少年(せいねん)に話しかける。

「約束……いま、守るよ……名前…お前の」
「……」
「そ、の……代わり、さ………オ、レの……やること、変わ…ってくれ」
「「もちろんです、マイロード」」

 途切れの途切れの言葉だが、それでも虫の息の少年が伝えたいことはすべて伝わった。
 それを示すために頷き、淀みなく答えた少年(せいねん)と青年に、もはや見えても聞こえてもないでもあろう状態であるにも拘らず、虫の息の少年は、安心したように口元の力を抜いた。

「あ……ぃ……が…と……」

 少年の瞳孔が開き、身体から力が抜けていく。
 力なく横たわる少年の命が、目に見える形で消えていく。
 それは少年にも分かっていたはずだった。

 しかしそれでも、子どもらしい無意味な最後の意地か。彼は――笑った。

「お前の……名、前は……っ」

 少年の口から、一つの名前が零れ落ちる。
 それが――少年の最期の一息になった。





「あ、朝いちばんにずいぶんとまたでぃ〜ぷでべり〜は〜どな話をしてくれちゃうね〜」
「マスターがしろと言ったんだろ、オレの過去の話」

 周囲の景色が塗り替わる。
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