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忘れ形見の孫娘たち
13.行こうよ
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身体に留まるホタルに時々手を差し伸べながら、鈴谷は僕の方を見てそう話す。

「……結局ぼくらはさ。ひこざえもん提督のことを何も知らないんだよね。じいさまとみんなとの絆とか、みんなの生活はどんなんだったとか」
「そうだねー」
「どんな風に過ごしてたんだろうな。どんな風にみんなと過ごして、どんな風に仲良くなっていったんだろうな……」
「……鈴谷もさ。ちょっと知りたい」
「だよなぁ」

 周囲をホタルに囲まれてるからなのか……それとも夜という落ち着いた時間だからなのか……こんなに鈴谷と穏やかな気分でここまで本音で語りあうとは思ってなかった。……でもこれは僕が知りたかったことだ。鈴谷たちと爺様が仲良く過ごしていたのは本当なようだ。なら、今度は爺様とみんなが、どんな毎日をどんなふうに過ごしていたのかが知りたい。

 鈴谷はしばらく『うーん……』と口を尖らせて唸った後、両手をぽんと叩いた。何かいい案でも浮かんだか?

「じゃあさ! 一緒に行ってみようよ!」
「行く? 行くってどこへさ?」
「鎮守府!」
「ちんじゅふ? ちんじゅふって鈴谷が過ごしてるとこだっけ?」
「そそ」
「一緒に?」
「うん」
「今から?」
「いえーす」

 今からはさすがにしんどいだろー……それに今行っても、爺様のそっちでの生活が見られるわけではないじゃない。

「だからさ! 提督がいた頃の鎮守府に行けばいいんじゃん?」

 言うに事欠いてこの子はついに頭がおかしくなりやがりましたか? そんなこと出来るわけ無いだろう。

「冗談もほどほどに……」
「大丈夫」

 僕が文句を言おうとしたその時、鈴谷は僕の首に優しく両手を回した。そしてそのまま自分の顔を僕に近づけ、おでこを僕のおでこに重ねた。お互いの息の感触を感じるほどに距離が近い鈴谷の笑顔は、ホタルの薄明かりに照らされて今まで見たことないほどに神秘的な笑顔に見えた。

「行けるよ? 鈴谷とかずゆきが一緒なら」
「でも……」
「ほら行こ?」
「……」
「目、閉じて」

 そしてそんな鈴谷の雰囲気に飲まれ、僕は鈴谷に抱き寄せられたまま両目を閉じた。世界が閉じ、僕が感じられる外界は、周囲の音……もっと言うと鈴谷の声と、鈴谷の温かさだけになった。

「耳、澄ませてみて……」
「ん……」
「何か聞こえる?」

 言われたとおり、鈴谷の声以外の音を注意深く聞いてみる。

……

「んー……特に何も」
「もっとよく耳すませて」

…………

「鈴谷のドキドキとか?」
「かずゆきのえっち」

………………

『…一艦…! 帰…し……たー!!』
『あれ?』
『もう少し……』

……………………


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