第百十二話
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てならない」
でも――と。グウェンが何かを言い返そうとするより早く、リズはさらに言葉を続けていく。ずっと向けていたメイスをそっと下ろして、代わりに何も持っていない片腕をグウェンに向けて。
「あたしたちと友達になるのが、今のルクスと友達になるのに、一番手っ取り早いと思うけど」
「……はぁ?」
そのグウェンに向けた空手は握手の代わりで。とはいえ、グウェンは呆気にとられた後、その申し出を鼻で笑った。
「馬鹿じゃないの。私が欲しいのはルクスだけよ。……ルクスがいないなら、今のあの子の友達とやら、全部壊してやるくらい」
――やっぱりダメよね、とリズは心中で呟いて。恐らくは、ルクスと一緒に遊びたいだけの彼女とは、今なら一緒に遊べるようになったやもしれないのに。浮遊城時代に起こったことにこだわっている、小粒だがあの浮遊城の亡霊とも言える彼女に、リズは握手ではなくメイスを構え直した。
「まずはその首切って、メイス辺りをルクスのお土産にしてやるわ」
グウェンが再び翼を展開し直していき、シルフ特有の弦楽器のような翼の音が響く。忍刀を順手に構えると、鎧に包まれていないリズの首筋をニタリと眺めた。すると翼を一度瞬かせて低空に浮かび、高速移動による一撃で決着をつけるつもりらしく。
「それじゃあ……さよなら、ね!」
翼による高速移動。何の小細工をさせる暇もなく、首をかっ切るだけの単純な動作。弦楽器のような翼の音をはためかせるなか、グウェンは――その音を聞いた。
魔法の詠唱の声。リズが今までまるで発動してこなかったため、自然とグウェンの思考から外れてしまっていた、この世界における基本戦術こと魔法。とはいえ、グウェンの指輪は相手の発動する魔法を無効化する、という特殊能力があり、どんな魔法だろうと発動以前に水泡に帰す――のが、グウェンにとって仇となった。
そのまま攻撃するか指輪の特殊能力を使うか、戦いの中で一瞬だけ迷ってしまった為に。当然、この局面において最適解である、指輪の特殊能力で敵の魔法を消しながら攻撃、をグウェンは瞬時に選択してみせるが――その一瞬が、リズの魔法を完成させる隙となった。
『わ!』
リズの唱えた魔法が、詠唱のごく短いものであったことも手伝った。その魔法は、自らの声を大きくする魔法――要するに、マイクを持ったような状態とする魔法だ。本来は特定の商売の時に使うその魔法は、今このタイミングでは。
「――――ッ!」
グウェンの鼓膜を破壊しかねない音波兵器となり、猫だましを食らったかのように、グウェンはピタリと静止する。翼は展開されたので空中には浮かんだままで、反射的に耳に手をやってしまった為に攻撃はとても望めず、目の前にはソードスキルの光を伴っていくメイス。
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