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魔王に直々に滅ぼされた彼女はゾンビ化して世界を救うそうです
第7話『Re:maker』
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方位から日の落ち始めた街を照らす。
 光の方からは、膨大な魔力が街の中心にまで届いていた。

「あっちで、外の魔族共を殲滅してるところだろうよ。アイツも本音なら直ぐにお嬢ちゃん達の無事を確かめたかったんだろうが、なにせウチのトップ直々のご指名でね。今回の防衛戦の指揮権を任されてんだ」

「ぃ……ぅ……!」

 スィーラが心配そうに彼方を眺め、メイリアも不安を押し殺す様にスィーラのドレスの袖を握る。その様子を見た男が小さく口笛を吹き、次の瞬間にはその場から跳び去っていた。気付けば緑の外套を揺らした男が、視界の奥でその紅槍を構えながら高速で屋根の上を駆けている。

 状況は確実に好転している。が、何か拭いきれない不安があった。

 足りなかった力はジークによって足りた。冷静になる頭脳も彼らによって回復している。人々の不安も少しは和らいだだろう。けれども、何か底知れない、恐ろしい予感がある。
 スィーラが再度広場を見回し、先程庇った少年を探す。どうやら怪我は無かったらしく、母親らしき人物に連れられ、目に涙を浮かべながら配られた固めのパンを頬張っていた。少年は遠く離れたスィーラの視線に気づくと、健気に笑顔を浮かべ、ぺこりと頭を下げる。スィーラもまたそれにつられて笑顔を浮かべた。


 ──同時に、途方もない殺気が、先程の槍を担いだ男が向かった方角−−つまりはジークが居るらしき方角から感じ取る。


 ダメだ。ダメだ。ダメだダメだダメだダメだダメだ。これは、これには絶対に逆らえない。これには絶対に抗えない。これは絶対に欺けない。
 足が震え出し、恐怖に呑まれそうになる肩を抱く。この殺気の主は、確実にこんな街一つ簡単に滅ぼせる。すぐにそうしないのは何故か分からないが、心の中にたった一つの懸念が浮かぶ。

 −−この殺気の下にはジークが居るのならば、確実にジークはこの主と共に居る−−と。

 嫌だ。
 ジークを失いたくない。
 誰にも拒まれた自分を初めて見てくれた、あの少年を失いたくない。
 もう一度あの暗い、悲しい、辛いだけの孤独に堕ちるのだけは、絶対に嫌だ。

 その衝動に突き動かされ、スィーラが足に力を込める。その瞬間に──








 何かが、飛んでくる。









 蒼いソレは音の壁に阻まれながらも、高速で空気を裂きながらこちらに飛来する。鮮血を撒き散らし、その後ろで小さく括った黒髪を暴風に靡かせながら、ソレはスィーラの真横を通過し、背後の石造りの家に叩き付けられた。
 轟音と爆風を撒き散らし、砂煙が晴れた底に転がっていたのは−−





 ──たった今、生きて欲しいと願ったジーク(かれ)だった。










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