第二章
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「わかったわね」
「それは間違ってると思うけれど」
「世間はそうなっていてもうちはいいの」
「絶対になんだ」
「そう、わかったわね」
「そこまで言うのなら」
現代的な考えの登龍は釈然としなかったが妻がどうしてもと言うので納得した。それで紅玉は家事を行った、とはいっても彼女もまた屋台の仕事もしていた。こちらはあくまで登龍がメインでやっていたがそれでもだ。
家の家事は彼女だけだった、だが。
ある日紅玉は風邪をひいてしまった、熱が三十九度も出てだ。
ベッドから起き上がれなくなった、それで言うのだった。
「無念だわ」
「風邪をひいたからだね」
「そうよ」
気遣ってくれて枕元にいる夫に言う。
「動けそうにないわ」
「無理はしたら駄目だよ」
その妻にだ、夫は優しい声で応えた。
「絶対にね」
「有り難う、けれどね」
「けれど?」
「家事はしなくていいわ」
この状況でもだ、紅玉は登龍にこう言うのだった。
「絶対にね」
「いや、君が風邪をひいていたらね」
「あなたがしなくちゃっていうのね」
「妻が動けない時はね」
それこそというのだ。
「夫が、じゃないか」
「最近の世の中ではそう言うわね」
「この国も総統が女の人になったんだよ」
「ええ、そうよね」
「女性の権利は当然だよ」
登龍はここでもこう言うのだった。
「だからね」
「今はあなたが家事をするの」
「洗濯も掃除もね」
「そんなの風邪が治ってからするから」
紅玉の返事は明白だった。
「しなくていいわ」
「どれも?」
「そう、どれもね」
「じゃあ食事は」
「そんなのどうでもなるわよ」
食事についてもだ、紅玉はこう言うのだった。
「お腹の調子は悪くないから電子レンジであっためたものを食べて」
「それでいいんだ」
「そう、インスタントラーメンもあるから」
そうしたものを作ってというのだ。
「ビタミン剤とか風邪薬も飲んであったかくしておくから」
「だからなんだ」
「何の心配もいらないわ」
「ラーメン位ならそれこそ僕は」
「いいの」
恫喝に近いまでの迫力でだ、紅玉はベッドの中から夫に顔を向けて言った。
「絶対にね」
「この状況でもなんだ」
「雨が降っても槍が降ってもね」
それこそというのだ。
「別にね」
「いいの」
「そう、普通にね」
「じゃあ」
「お店、アルバイトの子もいるでしょ」
「公平君と黄蝉ちゃんがね」
男女一人ずつである、店が繁盛しているので人手が必要で二人を雇って働いてもらっているのだ。
「いるよ」
「それならよ」
「二人と一緒にだね」
「お店に専念していてね」
「君がいない間は」
「そうよ」
まさにというのだ。
「お店のことだけをしていいから」
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