1,プロローグ
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アメリカから空港に降り立って、三時間。
見慣れた駅の改札を出たところで、俺は持っていたビールを煽った。
まあ昼間っから、と隣を通り過ぎたオバちゃんがぶつくさ言いながら通り過ぎる。
「いいじゃねぇか、別に」
俺は独り言のつもりで言ったはずだが、どうやら酒のせいで大きく響いてしまったらしい。
振り返った途端に見える引き攣った顔と、周りの人達の乾いた笑み。
皆が俺の持っている缶ビールを見ている。慌てて体で包み隠すように隠し、小走りにその場を立ち去った。
「何で、俺だけこんな目にあってるんだよ」
悔しさを誤魔化そうと更にビールを煽る。
チョロンと口の中を湿らただけで、俺の280円は終わってしまった。
買えたのは嘲笑と、不評。あの世界ならーーソードアート・オンラインなら払った分の効果が見込めるアイテム購入は、この世界では無意味な浪費で終わることがほとんどだ。
あの世界、思い出した光景に空缶はグシャリと悲鳴を上げる。
蒼穹の空の下、見渡す限り群青色の若草が生い茂る草原も。
闇夜の中で燦々と煌めく一条の流星も。
邪悪な気配が萬栄し、一歩一歩が恐怖との戦いだったあの迷宮区も。
もう俺の元へは戻ってこないのだ。
最近の俺は、自分でも運が悪いと本当に思う。いや、思えばあの日、ソードアート・オンラインのβテスト抽選に合格した時に、運を使いきってしまったのかもしれない。
奇跡とも言うべき確率に受かり、俺は夢の世界を体験した。
完全なVRのもとに構成された鋼鉄の浮遊城は、一片のポリゴンの狂いもなく完璧に思え、元からネットゲーム中毒者だった俺を虜にした。
大学は全サボりでスキルを磨き、モンスターを狩り続ける日々。
今まで画面上で見つめていた世界の住人になる体験は,大学をサボる口実には十分すぎた。
そんなβテスト体験はあっという間に過ぎていき、当然、優先購入権で正規版の購入をしようとしたところで、俺は一つの難題にぶち当たることになる。
ーー大学の短期留学だ。
βテストのはるか昔に申し込んだ過去の遺物は、まさに正式サービスの開始日から一ヶ月の間、行われる予定だった。
同じ新世界を見て見識を広げるなら、俺は自由の国よりも剣の国を選ぶ。その決意のもとに渡米中止を訴えでた俺だが、そんな理由が大学には聞き届けてはもらえず、俺は泣く泣くハンバーガーと銃の国に出荷される羽目となる。
そりゃアメリカは楽しかった。やたらフランクな外国人たちとのコミュニケーションやら、アメリカ流の考え方やら、見識やら、色々なものは得られたと思う。
だけど、それで失ったソードスキルの熟練度や攻略ユーザー達との遅れを考える度に、俺の胸はキリキリと締め付けられるようだった。
そうして悶々とした拘束が終わり、俺
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