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たった一つの笑顔
第五章

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「今はね」
「そうだったの」
「そう、色々と思ったのね」
「わかるんだ」
「だって、私達みたいな年頃で何かあったら」
 沙織は優しいくすりとした微笑みで真礼に話した。
「もうね」
「こうした話になるから」
「だからね」
 それでというのだ。
「わかったのよ」
「そうだったの」
「そう、それでその猫ちゃんだけれど」
「今一緒に住んでる」
「その子と会ってみる?」
「今日沙織の家に行って」
「今日は忙しいのは午前中だけで」
 休憩もなかった位にだ。
「けれど午後はそうでもないから」
「早く帰られそうだから」
「だからね」
 それでというのだ。
「一緒にどう?」
「沙織がそう言うのなら」
 真礼は沙織のその言葉に頷いた、そしてだった。
 この日は実際に沙織の家にお邪魔することにした、そして。
 仕事が終わってだ、それからだった。
 二人で沙織の家に向かった、途中スーパーで買いものをしたが。
「今日の晩御飯の食材に」
「そう、キャットフードにね」
「おやつまで買ったわね」
「やっぱりね」
 それこそとだ、沙織は真礼に話した、その家に向かう帰り道で。
「忘れられないわ」
「絶対になのね」
「だってあの子が食べるから」
「その猫ちゃんがなのね」
「だからね」
「そうなのね、ただね」
 ここでだ、真礼は沙織に尋ねた。
「その猫ちゃんの名前は」
「あっ、名前ね」
「何ていうの?」
「ミミっていうの」
「ミミちゃん?」
「そう、耳が大きいから」
 だからだというのだ。
「この名前にしたの」
「そうなのね」
「ちなみに女の子よ、病院に連れて行ったらまだ三ヶ月って言われたわ」
「拾ってすぐの時よね」
「あれから半年、最初からおトイレも爪研ぎも出来ていてね」
「あら、賢いのね」
「御飯もキャットフードで普通に満足してくれてるから」
「やりやすいの?」
 真礼はこう問うた、だが。
 沙織はその真礼にだ、苦笑いを浮かべてこう言った。
「それが凄く乱暴な子で」
「そうなの」
「いつも噛んだり引っ掻いたりしてくるの」
「猫ってそうよね」
「ええ、その猫ちゃんの中でもね」
「とりわけなのね」
「乱暴でがさつな子なのよ」
 こうだ、沙織は真礼に笑顔で話すのだった。
「折角拾ったのにね」
「凶暴なのね」
「しかも恩はね」
「猫ちゃんって恩はね」
「三年飼ってもね」
 これはよくある言葉だ、それで沙織も言うのだ。
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