第一章
[2]次話
李白と月
李白は無類の酒好きである、とかく何かあれば飲んでいる。
それで今も飲んでいる、夜の下彼は洞庭湖に舟を出してその上で少しばかりの肴を口にしつつ盃を手にしている。
そうし赤ら顔で飲みながら時折詩を書いていく、その彼にだ。
共に酒を楽しんでいる孟浩然が笑ってだ、こんなことを言った。
「今日もだね」
「はい、こうしてですね」
李白は孟浩然に上機嫌で返した。
「飲んでいるだけで」
「幸せになれるんだね」
「逆に言うと飲んでいないと」
その時はというのだ。
「あれこそ考えてしまって」
「憂いが尽きずに」
「気が晴れないです」
そうだというのだ。
「私の場合は」
「この世の憂は尽きることがない」
孟浩然も飲んでいる、そのうえで。
李白にだ、微笑んで言った。
「それこそ幾らでもね」
「次から次に出てきますね」
「あらゆる憂いが」
「はい、ですが酒がありますと」
「それでだね」
「憂いが消えます」
飲んでいるその時はというのだ。
「そして飲んでいますと」
「詩もだね」
「自然と出てきます」
「それが君だったね」
「はい、酒が入るとこの世のあらゆる美しいものが見えてきて」
それで、というのだ。
「詩に書きたくなってきます」
「そして実際に書く」
「そうしています」
「そうだね」
「今もです」
「今も書いているね」
「こうして、酒は私にとって最大の友の一人です」
そこまでの存在だというのだ。
「飲めるのなら幾らでも飲みます」
「そうして憂いを消して」
「はい、美を見てです」
「書いていくね」
「そうしていきます、酒がなければ」
それこそともだ、李白は孟浩然に話した。
「この世に生きている意味もないです」
「君の場合はそうだね」
「そうです、じゃあどんどん飲んでいきましょう」
二人でとだ、李白は赤い顔で孟浩然に言い飲んで詩も書いていった。見れば孟浩然も時折詩を書いている。
その時にだ、不意にだった。
李白は夜の湖の水面を見てだ、うっとりとしてこんなことを言った。
「いい月ですね」
「今宵の満月は格別だね」
「はい、何か」
「何かとは?」
「あの月を手に取って」
そのうえで、というのだ。
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