50.第一地獄・千々乱界
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行為も、それに挑むことも、傷つくことも、疲労することも血を流すことも死に物狂いになることも命の危険を感じることも死の淵を彷徨う事も、全てが美しくてかけがえなく素晴らしい。それらすべてはユグーがこの世に生を受けているからこそ感じる事の出来る事であり、すなわち生きていることが素晴らしい。
故にユグーにとっては命を賭した戦いで得られる全てが祝福に満ち溢れており、その祝福を受ければ受ける程にユグーは人生を素晴らしいと感じる。死に限りなく近いその賛美こそが、ユグーの身体を限界のさらに奥へと押し込んでいく――すなわち、『尽生賛歌』とは最高に人生を楽しむというそれだけに特化し、それを実現するための活力を永遠に与え続ける世界で一番『人間らしい』スキルだ。
このスキルはレベルの垣根を越える。今の黒竜に散々に痛めつけられたユグーなら、恐らくオッタルとの殴り合いを繰り広げても互角以上に戦えるだろう。事実、オーネストが彼と戦った時もそうだった。彼はスロースターターではなく、敵が強ければ強いほどに自分も強くなる戦士の究極系なのだ。
最初は掠りもしなかったユグーの掌が、今は黒竜の前足による斬撃をいなすほどの膂力を振るっている。まるでアズの『断罪之鎌』を複数本振り抜いたような斬撃を放つ肥大化した爪を相手に正面から挑む大馬鹿者など、オーネストを除けば奴ぐらいの物だろう。
「感じるぞ、貴様ノ殺意を!その眼から這い出て我ガ喉元を噛み千切らんとする意志!尋常な魔物とはまるで別の、天上ノ威光ニモ迫ル勢いぞッ!!」
大地を踏み割るほどの深い踏み込みと共に、ユグーの剛腕と黒竜の爪が激突する。黒竜の爪はそれ自体が音速を超えた最上級の武具に匹敵する威力を内包している。その爪と拳が接触し――ゴガァァンッ!!と凄まじい轟音がダンジョンを揺るがした。
ユグーは大地を削りながら後方に弾かれるが、倒れはしない。逆に黒竜は思わぬ反撃に僅かながら体を仰け反らせている。基本的に全ての行動が音速を突破している黒竜にとってもこの攻撃速度と反応は予想の範疇を越えていたのだろう。
この短期間で、既にユグーは黒竜との差を急激に埋めつつある。冒険者という枠を逸脱した天賦の戦才――もしかしたら、彼は太古の英雄の血でも引いているのかもしれない。――だからどう、という訳でもないが。先祖が誰であろうとクズはクズ。事実は変わらない。
「ユグー、ついてこい」
「――従おう、勝者よ」
最高の戦いに水を差すようなオーネストの一言に、ユグーは厭な顔一つせずに追従した。
勝者と敗者。ユグーにとって戦いは勝利か死の二択だったが、オーネストはその道理を捻じ曲げてユグーを敗北させた。それゆえの、ユグーなりのオーネストへの礼儀がこれだった。
(今の弾きで僅かなが
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