50.第一地獄・千々乱界
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るが、それでも大気を強く打ちつけるような衝撃を凌ぐので精一杯。ドナの言うとおり、油断すれば全員が後方に吹っ飛ばされかねない衝撃が戦闘空間に吹き荒れている。
黒竜のいる場所は、何の遮蔽物もない大きなフロアだ。中心部の大きく開けた空間から無数の洞窟が繋がっている構造になっており、ココたちはその洞窟で最も見晴らしのいい場所から行く末を見守っている。
出来る事は、最早傍観することと祈る事だけだ。何も出来ないし、何も変わらない。自分たちという存在の無力さだけを思い知らせるためだけに存在する最低の特等席から、彼等は戦いの趨勢を見守っていた。
黒竜のいる間に4人が入りこんだ時、既に黒竜は轟音を立てて飛翔し、脚で攻撃を仕掛けてきた。並みの冒険者ならその時点でぺしゃんこの肉塊になっていた所だろうが、彼等は並ではない。ユグーはまともにその一撃を受けたが死なず、他の3人は早々に攻撃を躱した。そこからは、ワンマンゲームの始まりだ。
ユグーは何度でも立ち上がるが、立ち上がるたびに黒竜に改めて踏み潰される。リージュの氷はまるで通用せずに防護壁となり、アズの鎖さえも容易に引き千切られ、唯一黒竜の速度に追いつけるオーネストが攻撃を当てても相殺される。戦闘開始からものの数分で、4人の身体は見る見るうちに傷ついていった。
しかし、アズは相変わらず笑っているし、ユグーも笑っている。リージュとオーネストには微塵の精神の揺らぎも感じられない。それはどんな武勇譚に登場した如何なる英雄よりも鮮烈で、リアルで、果てしのない存在感を放って現在という物語を書き換え続けている。
「……………悔しいなぁ」
「何がよ、ココちゃん?」
「私もあそこで戦える戦士になりたかった、ってハナシ。悔しいなぁ、もうちょっと早く生まれて、もうちょっと死にかけるくらいの戦いをしてたら……私もあそこにいられて、一緒に戦えたかもしれないんだなぁ………って、さ」
人生はいつだって理不尽で、些細な違いがどうしようもなく重く圧し掛かる。
ココは人生に置いて手を抜いていたことはない。剣に関してはむしろ人より何倍も激しく取り組み、幾千の実戦を潜り抜けて刃を研ぎ澄ませてきた。彼女が現在の年齢でレベル5の地位にいること自体が本来ならば早すぎるのであり、戦士としての誉だ。
だが、その事実は今のココにとっては何の慰めにもならない。ココは今、あそこにいる戦士たちに憧れたのだ。届かないから、羨望を抱いたのだ。無い物ねだり、子供の我儘、何一つ実効性の伴わない空想。今の自分の剣があの領域に届かないことへの悔しさが、行き場を無くして胸中を激しくうねる。
自分があそこでオーネストのサポートを出来たら――アズやリージュの鼻を明かす大活躍でも出来たら――全ては仮定であり、仮定は実体を持たない。たった今
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