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俺達は何を求めて迷宮へ赴くのか
50.第一地獄・千々乱界
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を任せ、脚を浮かせた。

 瞬間、俺は不気味な浮遊感と白んでいく視界を自覚し、気が付いたら内臓を吐き出しそうな衝撃と共に壁に叩きつけられていた。

「ご、がっ」

 漏れるのは、受けた衝撃とは余りにも不釣り合いな短い嗚咽。咄嗟に体の衝撃を鎖でカバーしたにもかかわらず、肺に溜まったすべての空気が一撃で吐き出され、口の中に鉄分と胃酸の入り混じった味が広がる。もし鎖でカバーしていなければ、今頃俺は壁に叩き潰されていた所だろう。

 遠くを見ると、氷山を発生させたであろうリージュが辛うじて作り出した防護氷壁が崩れ落ちる瞬間と、氷の破片が体に突き刺さったまま立ち上がるオーネストの姿があった。氷壁があったから氷が刺さる程度で済んでいるが、恐らくまともに喰らえば全身の穴と言う穴から血液が零れ落ちていただろう。
 更にその反対側には、黒竜に17度にわたって踏み潰され続けた筈のユグーが、血塗れの姿で立ち上がっている。度重なる攻撃で襤褸切れに成り果てた彼の衣服の切れ目から、背中を囲う美しい蛇の入れ墨が見え隠れする。

 4人がかりだ。4人がかりで立ち向かって――それでもあの竜はブレスの一つすら吹いていない。

 あれが手、足、尾、頭のいずれかを振り回すたびに、挑戦者たちの身体は千々に乱れかねないほどの物理的破壊エネルギーを浴び、血反吐を吐き出す。それが来ることを判っているのに、災厄と呼んで差支えないほどの力を避けきることも受け止めきれることもない。

 すなわち、圧倒的な力による蹂躙を『される側』に、俺達は立っている。

 自分の力を100%引き出した全力でも未だに碌な傷さえ与え切れていない現状と、不覚を取って今にも吐血しそうなほどの衝撃の恐怖。絶望を乗り越えた先に待つ更なる絶望。戦えど戦えど届きはしない絶対的な領域に――黒竜はいた。

「反則だろ……攻めれば壊され、攻めなくても壊され、ダンジョンの床と壁までをも破壊するたぁナンセンスだぞ」
「馬鹿が、そのナンセンスに俺達は挑んでるんだ。文句を言う暇があったら考えろ。考える事を辞めた奴からここでは死んでいく」
「俺達も死ぬのか」
「俺達次第だ。てめぇが決めろ、殺るか死ぬかをな」

 恐ろしくシンプルで端的な事実を、オーネストは好む。今俺に突き付けられているそれも、またどうしようもなく他に選択肢のないシンプルな二択だった。
 この男は今、俺を試しているのだ。俺が死を選ぶと言えば、ひょっとしたらオーネストは「なら俺が介錯してやろう」と首を刎ねて『くれる』かもしれない。だがもう一つの選択肢を選んだなら、こいつはいつもと変わらない澄ました顔で「そうか」と言うに違いない。そう思うとおかしくて、自然と口元が綻んだ。

「そうかい………それじゃ、死力を尽くすしかないねッ!!」
「そうか」
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