50.第一地獄・千々乱界
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人間は、本当に美味しいと感じる食べ物を口にした時、言葉を失う。
人間は、本当に美しい物を目の前にした時、行動を失う。
人間は、想像を絶する状況に突然立たされたとき、言葉と行動の両方を失う。
では、今自分の立たされている状況は何だというのだろう。
想像を絶する環境の中で、それでも雄叫びをあげて邁進する今という刻は、夢と現のどちらなのだ。
「――ッおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーッ!!!」
『????? ???? ??? ?????――!!』
背中から出現した『死望忌願』がその漆黒のコートの内より夥しい量の鎖を放出し、虚空で出鱈目に軌道を変えながら黒竜に殺到する。それは鉄の雨と形容すべきか、灰色の嵐と形容すべきか、まるでそれ自体が巨大な生物であるかのように大小様々な鎖が鉄砲水のように噴出し、ひとつの巨大な鎖と化して黒竜の前足を猛烈なパワーで殴りつける。
人間なら『よくて』粉微塵になる、この世の物理法則を越えたエネルギーの塊による破滅の殴打。それは吸い込まれるように黒竜に命中するかと思われた。だが、黒竜はまるで下らない手品を見るようにそれを一瞥し、家どころか小さな村なら一撃で更地に変えかねない巨大な後ろ足を振るい、鎖に叩きつけた。
ゴガジャラララララララッ!!と金属の山が盛大にぶちまけられるような異音を立て、大樹のように密に固まっていた筈の鎖の結合が砕かれる。この世で絶対とされる不壊の理に最も迫ると言われた不可避の力が、砕き裂かれる。
「まッッだッッだぁぁぁあああああああああああッ!!!」
鎖が黒竜に接触するや否や、俺は下腹部にあらん限りの力を込めて放った鎖を手前に引き戻した。
刹那、バラバラに引き裂かれた鎖が黒竜の脚の元で巻き戻し映像のように再構成され、黒竜の脚を掴む世界最大の枷が顕現する。貪り喰らう獣を縛る魔枷と化した実体のない概念の塊がけたたましい軋みの音色を奏で、黒竜の体のバランスが僅かにずれる。
これだけの力を込めても『僅か』。されど100Mを越えた規格外の巨体における僅かは、矮小な人間にとっては大きな差を生み出す。この鎖を引いた瞬間、既に俺の親友が黒竜のほぼ直角の身体を獣のような速度で駆け上がっていた。最早曲芸を越えて神懸かったクライミングの末、口にヘファイストス製の直剣を咥えたオーネストが辿り着いたのは黒竜の潰れた眼球の近く。
間髪入れずにオーネストは剣を手に握り、幾千の敵を屠った斬撃を叩き込む。
グオオオオオオオンッ!!と、剣を振って発生するとは思えない怪音を立てて音速を突破した殺戮の刃が迫る。バランスを崩した黒竜にとっては致命的な隙だった。
筈だった。
『グルルルロロロロロロオオオオオオオオオオオッ!!』
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