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或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第十九話 流し雛の奏上
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派の中でも不安視する者が居たのだ、先を見通せばどれ程無謀なものか、誰だって分かる。
 だが、草浪の考えと裏腹に守原を継ぐ筈の護州公子は先程から生まれてから一度も戦塵に晒した事の無い秀麗な顔を怒りに歪めている。
「何が北領の失陥は執政府と上級司令部の無能による、だ!!
たかが百姓上がりの家の養子風情が!!」
――随分な怒りようだ。あの男のように副官をいたぶる趣味がないだけましだ。
草浪の溜息に応えるように扉が開き、守原英康が入って来た。そして、それに個人副官が付き従っている。
「何なのだ、あの男は」
 彼もまた憤懣やる方無いといった様子で椅子に腰掛ける。
「新城――ですか?」
 草浪は自分でも分かり切った事を聞く、その口調は忠臣のもの、と言うには些か無感情なものであった。草浪道鉦中佐はこの二人に好んで仕えているのではなく、元々は五将家が主権を握る間際に守原へ臣従した弱小将家の主であり。現当主である道鉦自身も長康様に引き立てられたものであり、この二人とは職務上以上の付き合いは殆どない。
草浪道鉦が忠義を感じるのは守原長康が当主である守原家であり。この二人はあくまでも守原長康の代理、それも極めて不愉快な、と草浪道鉦は捉えていた。
「他に誰がいるのだ。奴の巫山戯た奏上で守原家は侮辱された。
復仇の機会であった総反攻もこれではどうなるか分からん」
守原英康が裏で抱え込んでいる危機感は単なる名誉の復仇ではなかった、北領の権益を失った今、戦時に耐える経済力を失い、遠からず守原も安東の様に経済危機を迎えるだろう。
総反攻を起こしたらその前に家が物理的に崩壊した可能性が高いが良くも悪くも守原英康は行動的な人間であった。
「あの男には、色々ありますから」
 そう云いながらも草浪は内心苦笑する。
――色々、か。便利な言葉だ。
それは単なる怠惰とは言えなかった、確かに一つ一つ並べたてるには新城直衛は面倒が多過ぎる。過去は勿論、交友関係まで面倒に満ちている。

「そんな事は誰でも知っている。」
 少し肩透かしをくらった様子で定康少将が話す。新城直衛の(推定)年齢と同じ28歳であるが、つい先月少将に昇進している。
つい二月前まで中尉だった男との差は――。
「奴は育預、つまりはただの衆民だ。産まれからして、我々とは違う。
駒城は良馬の産地を抑えただけの百姓上がりだ。
フン、あの家では拾った汚い餓鬼でも有難がるのだろう」
 侮蔑するように定康が吐き捨てる。

「その百姓に! 拾われた輩に!
我々は!守原は!してやられたのだ!」
 英康大将が机に拳を叩きつけた。音を立てて、名匠の造り上げた茶碗が割れる。
「大体、何故あの育預なのだ?
あの家の子飼いの輩があの大隊の指揮官だった筈だ。
それに伯父上を公然と侮辱する奏上をあの式部官
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