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或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第十九話 流し雛の奏上
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「少なくとも、実仁殿下はお前の事を心配していた。せいぜい上手く後楯になってもらえ。
いいか、けして生意気な態度をとるなよ」
 ――親王殿下、か。信用できるのか出来ないのか。少なくとも当面は味方であると有難いが。
「義兄上の御言葉とあれば」
首肯すると保胤は微笑しながら叱責する。
「それを生意気と言うのだ。」
 温かい叱責の言葉だった。あぁやはりそうだ。
「僕の後楯は義兄上と義姉上だけですよ。」
 麗子がちょこちょこと歩みよってきたのを抱き上げる。
「これからも、せいぜい甘えさせて貰います。」
 あやしながら本音を伝える。
「及ばずながら、力になろう。」
 僅かなりとも罪悪感を打ち消せたのか保胤が嬉しそうな声を出す。


 ――そう、危険を呼び寄せる奏上、そして〈皇国〉の最弱軍への転属。俺はこの面倒事を自ら背負い込んだのだ――


「――なれど敵騎兵の追撃を察知す。
前任大隊長これに対し、旺盛なる戦意をもって僅か百名の将兵を直率し遅滞戦闘に当たる。
小官、前大隊長の命を受け、残存部隊の指揮を代行し転進に成功す。
独立捜索剣虎兵第十一大隊はこの時をもって北領における戦闘を終結せり。
この戦における大隊の戦死者は約八百名、これ、大隊の定員に届く数なり。」

 回想に浸りながらも新城は自身が書いた事を最後まで読み上げていた。
 ――全く酷い文章だ。事実を歪曲し、誰も彼もが立派に軍務を果たした事にしてある。
いや、少なくとも兵に関する限りは真実であるが。
 ――自国を焦土と化した事も伏せて美辞麗句で飾り立てている、愛国心など欠片も持ち合わせていない僕がただ同情を引く為に――最低の喜劇だ。

だが新城は自身がどう思っていようと、この喜劇はまだ閉幕は出来ない。
式部官が予定通りに儀式を進行させようと此方に体を向けるがそれを無視して白紙の部分に目を向ける。
 今、新城を止められるのは皇主だけだった、実仁達が描き、保胤が承諾した第二幕が始まる。
新城は無意識に息を深く吸い込んだ。
  ――これからが本番だ。これを終わらせ、自分がどうなるのかは分らない。
 しかし今の新城は自身の選択がいかような結末を導こうとも続けるしか無かった。



同日 午前第十二刻 守原家 上屋敷 喫煙室
守原家陪臣 草浪道鉦中佐

 宮城より上屋敷へと共に戻った守原定康の機嫌は最悪だった。
彼に付き従って居る個人副官――宵待松美中尉相当官がどうにか宥めようとしているのを横目で見ながらも、草浪道鉦陸軍中佐は無表情ながらも内心では安堵していた。
 彼自身は守原家に連なる陪臣として総反攻計画に携わっていたが内心ではまったく同意していなかった。
 ――これで、総反攻は潰された、と考えて良いだろう。自分を含め、守原
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