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或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第十九話 流し雛の奏上
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れば幸せなのでしょうが」
「理由は分かるか」

「えぇ、義兄上や豊久に他の将家と言う者を懇切丁寧に教えていただきましたから。
特に能力が伴った参謀将校の厄介さは」
 平時における軍後方は陰惨な戦場である。
「――だからこそ、馬堂少佐が適任なのだろうが、まぁ兎にも角にもそういう事だ」
 嫌そうな顔のまま言葉を切った。
「要するに、陛下に奏上仕まつる際に総反攻とその不愉快な首謀者について何か述べれば宜しいのですね?」
「そうだ」
 ――成程、だから豊久では駄目か。
「将家に、とりわけ守原には恨まれます。
駒城とは無関係、僕の独断での行動ですか?」
「あぁ、そういう事になる。」
 義兄が、悲痛な表情で頷いた。

「馬堂家は強い。 ならば育預を、ですか?」
 駒城家が持つ五将家随一の財力を支えているのは代々の馬堂家であった。
少なくとも畜産業の振興に大きく関わって居たのは確かであり、そこから様々な産業振興を行うべく働きかけていたのも馬堂家の派閥だ。そして馬堂豊長・豊守は官界だけではなく、軍需を通して財界や衆民院でも独自に親駒城勢力を作り上げている。 軍という枠組みから出れば家臣団筆頭格である益満家よりも世俗への影響力は強い。
「頼む! 皆まで口に出させないでくれ!私は――自分が情けなくなる。」
 苦渋に歪んでいた顔がさらに歪んでいた。
 ――余程苦痛なのだろう。
「申し訳ありません。」
 そっと目を逸らし、千早達と戯れる初姫に目を向けて笑みを浮かべる。
「そうなると、僕はどうなるのですか? 駒州の後備ですか?」
 ――軍に再編するのなら直ぐに戻るかもしれない。剣虎兵予備士官はかなり手薄の筈だ。
「駄目だ。奏上が駒城と無関係である以上、露骨に庇う事は出来ない。
駒州鎮台の中でも口さがない者はいる」
 育預、詰まる所それに尽きる。――少なくとも明確な理由を求めるのならば。
「それでは何処に?」
「陸軍には置けない、近衛だ。」
 陸軍ではなく近衛、つまり――。
「となると、衆兵ですか。」
 よりにもよって近衛衆兵か。 畜生、口出しする阿呆がいるせいで。
 大方、佐脇か河田が急先鋒だろう。
 畜生、どちらも餓鬼の頃からろくな事をしない。
――見ていろ、その内必ず、絶対に――。
「あまり考えるな。」
 義兄の声で目を上げる。
「何かを考えている時、いつもお前の顔に陰が出る。
まぁ常の仏頂面も見栄えは良くないが。」
 ――こうして心配そうに見られるのはいつまでたっても慣れないものだ。
新城を外見通りに見ているような人間なら腰を抜かすような事を内心思いながら、新城は素直に首肯し、頬の筋肉を意識して緩める。
「気をつけます」
 ――失敗したな、どうにも子供の頃から可愛がられた相手には気が緩む。
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