第一部北領戦役
第十九話 流し雛の奏上
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して知られるが番犬も兼ねて、あの家では専門の使用人を雇い熱心に何匹も飼われている。成長すれば一間半にもなるが――。
「――――!!」
まだまだ、今は千早に全身を一舐めされる位に小さい。
「こら、そんなことでどうする。」
苦笑して悲鳴を上げて部屋の隅へと逃げ出した子犬を叱りながら保胤は義弟を招き入れる。新城が椅子に座ると麗子を父の下に帰して差し上げる。
近寄った愛娘に保胤は、微笑んで頭を撫でる。抱き上げはしない、将家の父としてはこれでも破格の触れ合いであった。
麗子はよちよちと千早の方へと向かっていく、その様子を見て先程の子犬も近寄っていった。
それを辛抱強く受け入れる千早。
少々うんざりして見えるが気にしない様にしよう。
その様子を二人で見ていると義兄が思い出したように口を開いた。
「あれに、雄猫を見つけてやらねばな」
「そうしたいのは山々ですが、好みが厳しいらしくて、一度は血みどろの喧嘩になりかけました」
「主人と似て始末におえない、か」
珍しく人の悪い笑みを浮かべる義兄に新城は肩をすくめてこたえる。
「不徳の致すところで」
――主人の場合は幼年学校では同じ班の友人が、それ以降は豊久が面倒を見てくれていた。願わくばまた面倒を見てくれればとおもっている、全く我ながら不徳極まりない輩だ。
しばらく世間話を続けていると家令が黒茶を持ってきた。
その黒茶を黙って飲みながら保胤は何やら逡順している。
「――お前に良い知らせがある」
決心がついたのか、口火を切った。
「何でしょうか?」
「馬堂の世継、彼が俘虜となっている事が確認出来た」
「それは――」
「確かだ、官僚が来月には確認に出向く。豊守は自分から行きたがっていたがね、流石に将官を送るのは面倒にすぎる」
新城の口安堵の息がもれる。
――何はともあれ無事を素直に喜ぼう。その程度の人情は俺にもある。
「お前にも素直に喜ぶ事があったか。」
保胤は他人事の様に言っているが本人も嬉しそうに言っている。
「彼は、将校としてどうだった?」
義兄が陸軍中将の顔で尋ねる。
「そうですね。慎重過ぎるきらいがありますが、まず間違いを犯しません。
優秀な幕僚と十分な時間さえあれば連隊位は上手く扱えるでしょう。」
――奴ならば幕僚を執拗に吟味して文句を言いながらも問題なく動かすだろう。北領での実績があれば部下たちが服従するには十分であるだろう。
「そうか」
満足そうに頷くと、意を決したのか細巻を取り出し、新城に勧める。
火を点け、新城も旨そうに紫煙を燻らせる。
――やはり上物だ。
「それで、義兄上。僕に何かやらせたい事があるのでしょう?仰ってください」
「やはり解るか」
ばつの悪そうな顔をする保胤に新城は首肯する。
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