15話
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「おかしいな。特に何か、夢なんかを見ていたわけではないのに……」
少しずつ無くなっていく倦怠感。回復してきた鬼一は身体を起こす。不快感だけは拭えす、身体の底から湧き上がり続けるそれに気分が沈む。
楯無は冷蔵庫の中から冷えた飲み物、洗面所からタオルを鬼一に渡す。
「……大丈夫?」
一息でペットボトルの中身を身体に流し込むことで、ヒンヤリとした心地いい冷たさが熱した身体を冷却し乾いた喉を潤した。鬼一は生き返ったような感覚に包まれる。
「大丈夫です。おかげで楽になりました」
鬼一の言葉に楯無は安心したように息を漏らして肩から力を抜いた。
タオルで顔から流れている汗を念入りに拭う。先ほどまで自分の中にあった眠気や、セシリアと一緒にいたときの柔らかな気持ちは微塵も無くなっていた。鬼一にとって眠気はどうでもいいものだったが、あの時に抱いていた安らぎが無くなっていることの方が余程ショックだった。
突如、両手が震える。
胸の中が空っぽになっていくような錯覚が鬼一に芽生える。そんなこと、あるはずもないのに。唐突に、それに苛まれた。胸を掻きむしりたくなるような衝動。鬼一はそれを否定したくなり咄嗟に―――。
「……鬼一、くん?」
困惑したような楯無の声。しかし、そこに不快感というものは皆無だった。
手袋に包まれた両手が楯無の右腕を包んでいた。鬼一もどうして、そんなことをしたのかは分からない。理由が自分にも分からなかった、
もしかしたら、怖かったのかもしれない。
もしかしたら、逃げたかったのかもしれない。
もしかしたら、弱さを受け入れるわけにはいかなかったのかもしれない。
そして溢れるそれを鬼一は止めることは出来なかった。
鬼一の瞼から流れる雫が止まるまで、楯無は空いている左手で鬼一の頭を撫で続けて上げた。
楯無はどうして、突然鬼一がここまで乱れることになったのかは分からない。だけど目の前の少年を放置することは出来なかった。あまりにも何かに苦しんでいるように感じる。
あんなに穏やかな表情をしていたのに、あんなに幸せな表情をしていたのに、一瞬でそれはなくなった。
鬼一は夢を見ていないと言ったが、楯無はそうは思えない。夢かどうかは知らないが鬼一は何かを見ていたのだと思う。そうでなければあんなに苦しそうな顔と唸り声を上げないからだ。こんな鬼一は初めて見た。
唐突に、楯無の頭の中には通路で見た鬼一のあの無機質な表情が思い浮かんでいた。
―――――――――
「つっきーおはよー」
次の日の朝、教室に来た僕は席に着きながら話しかけられた。間延びした声は本音さんだった。クラスで話す人が固定化されている現状はあまり良くない。しかも3人だけ
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