15話
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れを手放すことになってしまった……」
その時の鬼一が味わった痛みは想像することも出来ない。言葉にできないものなんだと思う。いや、今もその痛みを受けているんだろう。
ふとその時、鬼一との戦いや会話が頭によぎった。
……自分を傷つけて、追い込んで、誰かに利用されていることも理解した上で、それでも鬼一は戦うことを選んだ。いや、もしかしたら『戦う』ことしかできないんじゃないのか?
漠然と、そう思った。
「……なんで、なんで月夜はあんな風にいられるんだ? 私に姉さんのことで文句の一つでも言えばいいじゃないか……」
「鬼一は箒のことを恨んじゃいないさ。それに、箒にそんなことを言うのは無意味だとあいつは思ってるんじゃないかな」
口を挟むつもりはなかった。鬼一じゃないのに、思わず口にしてしまう。でも、鬼一はそういうと思うな。あいつが見ているのは『過去』じゃなくて『今』と『これから』のことだけだ。それは、あいつのことを見ていれば、話してみれば分かること。そんな暇があったらあいつはどうすれば今よりも強くなれるのか、そんなことを考えていると思う。
俺の言葉に箒を身体を起こした。その表情は驚きに満ちている。
「……なんで、そんなことが言える?」
「……箒にそんな文句を言っても何も変わらない、というのと箒と束さんが違うことを理解していると思う。あくまで重要なのはこれから自分が何をすべきなのか、どうすればいいのか、それしか考えていないよあいつは」
「そう、か……」
そう言って箒は身体を倒す。その時、箒がどんな感情を持っていたのかは分からない。
「……一夏、すまない。変なことを言ったな」
「いいさ、別に気にしていない」
「……一夏、おやすみ」
「おう。おやすみ」
そう言って箒は眠りについた。
―――――――――
「……っ! ……くん! 鬼一くん!」
身体を揺さぶられ、楯無が何度も鬼一を呼びかけることで鬼一は静かに意識が戻ってきた。意識は目覚めたが、体中に纏わりつく不快感に嫌悪が沸き起こる。身体を動かそうとしたが異常なまでの倦怠感が身体をストップさせ、鬼一を縛り付けた。
そこで鬼一は初めて、楯無が自分を呼んでいることに気づいた。
「……どうしました? たっちゃん先輩?」
口の中が乾いている。鬼一は思わず掠れた声を出してしまった。ベッドに沈んでいる身体はあまりにも熱い。
「どうしました、じゃないでしょ!? あなた今すごいうなされていたわ。ほら、すごい汗」
その言葉に何度か瞬きをする鬼一。最後の瞬きで瞼の中に入ってきた一滴の水で、楯無の言葉の意味に気づいた。同時になぜ、自分がこれほど発汗しているのか理解出来なかった。
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