15話
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穏やかな表情を見るのは。
通路で見たあの無機質な表情とはまったく別人のように感じる。いや、一夏くんとの試合で見せた顔も含めれば、あながち間違いでもないと思った。証拠も確証もないが。
カン、と言ってもいいかもしれない。この子はあまりにもアンバランスな存在だと思った。もしくは違和感の固まりと言っていいだろう。
「なんか嬉しそうだね。そんなに嬉しいことがあったの?」
その言葉に鬼一くんは普段よりも素直な声で、柔らかい声で答えてくれた。もしかしたら私はこの子の貴重な本音が聞けるのではないか? という興奮もある。
「……そう、ですね……」
最後の言葉は口にせず、ううん、口にする前に意識が落ちたみたいだった。
このままゆっくりと休んで欲しいと思う。同室の人間だからこそ分かるが、鬼一くんはまだ1回も熟睡できていない。私に気づかれていないと思っているけど、夜に何度も起きているのは気付いている。ここに来てから1回も身も心も休めさせることが出来ないんだろう。彼にとってここは本能的に『嫌い』な場所なんだと思う。
実際、彼がISに対してどんな考えを持っているかは分からないけど、少なくとも良い感情は持っていないはず。両親が亡くなった原因は、事故とは言えISなのだから。彼から直接両親のことを聞いたのは1回のみ。あの時のこの子の言葉からは両親から充分な愛情を受けたということがよく伝わったし、少しだけ羨ましいと妬んだほどだ。そんな彼がISに対して良い感情など持てるはずもない。
もしかしたらここに来た時から彼は表面化させなかっただけで、明確な怒りや恨みのような感情で動かし、支えている部分もあったかもしれない。
ゲーム、e-Sports、それはあくまでも建前で彼の『本心』はもっと別にあるように思えた。今はそれがなんなのかはまったく分からないけど。いや―――、
なんとなく、家族に関することがこの子の本心に繋がるような気がした。
家族。
私にとって何よりも大切で、何よりも大事で、何よりも守りたいもの。今も昔も、そしてこれからも変わらない。
―――簪。
昔、あの子を安全圏に遠ざける為に投げかけた言葉。当時は正解だと思った。嫌われることになっても、恨まれることになっても、疎まれることになっても、私個人より、なによりもあの子が大切。今も、それは変わっていないたった1つの私の存在理由。
―――あなたはなんにもしなくていいの。私が全部してあげるから。
だけど、結局私が行ったことはあの子に対して大きなコンプレックスを、私じゃどうしようもない引け目をあの子に背負わせることになってしまった。私は大きな失敗を犯してしまった。
―――だから、あなたは―――。
ISという争いの火種
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