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ep.009 腐敗区へ
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的場がカフェに着くと、そこには既に1人の女性が座って待っていた。
「やぁ、的場くん。ちゃんと来たんだー偉い偉い。」
その口調からして彼女が"向子さん"で間違いはないだろうと的場は確信した。
そして、昨日感じた恐怖を薄っすらと心の隅に残しながら彼女の向かいの席に座った。
的場は席に座ると、恐怖と緊張で微妙な金縛りに掛かっているような状態になった。
それを察知した向子は手を挙げた。
途端にマスターが注文を聞きにやってきた。
「ねぇマスター。彼にエスプレッソを1つ、ね♪」
「かしこまりました。」
マスターはエスプレッソを作り始めた。
それから的場に視線を戻すと、もう自分のことを知られていたとしても関係ないと自分なりにけじめをつけたのか、彼の目には戸惑いはないことが確認できた。
「それじゃあ、君に質問をいくつかしたいんだ。」
ほんのり緩んでいた空気にほんのちょっぴりの冷気が走り、真剣な話に入った。
「君はここに来るまでに覚悟はしたかな?」
「どういうことですか?」
向子は質問が唐突過ぎたのかもと反省して、改めて噛み砕いて的場に質問し直した。
「君がこれから知ることは普通にここにいれば知ることはないようなことばかりだよ。 中には君が知りたくないことだっていっぱいだし......」
「それでも!」
的場は向子の言葉を遮って自分の主張を始める。
「俺は...覚悟とかはまだ微妙かも知れません。 でも、あなたと電話で話した時から2度とここに戻れないかもくらいは考えていました。 だから....教えてください。」
少し自信がなさそうな的場だが、向子としては十分な覚悟ができていることに感心していた。
「ふふん♪ 十分な覚悟があるみたいで結構だよ。 じゃあ、もう帰ってもいいよ。 家に帰ってからが重要だからね。」
的場は届いたエスプレッソを呑み干すと店を出た。
家に戻ると、マークの書かれた地図が1つ置かれていた。
「向子さんがやったのか。」
ーその頃
第0学区の野口はゆっくりと的場を待っていた。
「やはり僕の描いた通りの物語に進んでいるようだ。」
すべてを見据えているかのように野口は独り言を話す。
カチ カチ カチ カチ カチ カチ
突然、キーボードを叩く音がやたらと聞こえて来る。
野口が振り向くと、影縫がノートPCをいじっていた。
「よし、これで完成だな。」
影縫は何かを完成させたようでやけに満足そうだ。
しかし、どうにもいつものようにゲームをしているようには見えなかった。
「何をしてるんだい?」
「ちょこっと面白いウイルスを作ってさぁ、なんとなんと侵入した端末の位置情報を随時報告する優れものなんだよ。」
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