11.ありがとう鈴谷
[8/8]
[8]前話 [9]前 最初 [2]次話
ウチに来た時……きっと鈴谷は、この上なく心細かったと思います。突然やって来たからうちの家族には不審人物としか思われないし、爺様には会わせてもらえないし……」
「……」
「でも鈴谷は、めげずに繰り返し僕の家を訪れてくれました。そのおかげで、僕はみんなと知り合えたし、告別式なんて大それたことが出来る機会ができたんです。逆に言えば、鈴谷が勇気を振り絞って僕の家に来なければ……鈴谷が何度も僕の家に来てくれなければ、こんな機会はありませんでした」
「かずゆき……」
鈴谷が僕の手を強く握った。答えるように僕は鈴谷の手を強く握り返す。……一回しか言わないからな。よく聞いとけよ鈴谷。
「鈴谷。お前のがんばりのおかげで今日がある。お前がうちに何回も来てくれたおかげで今日がある。本当にありがとう。僕にこんなことをするチャンスをくれてありがとう。たくさんの仲間と知り合えるチャンスをくれてありがとう」
「……」
「みんなに爺様の死を悼む機会をくれてありがとう。本当にありがとう鈴谷」
ホールの所々から『鈴谷ありがとー!』『いよっ! 最上型重巡洋艦!!』という声が聞こえる。……当の本人の鈴谷は、顔を真っ赤にしながら恥ずかしそうにイヤイヤと右手を振っていた。
「いやいや鈴谷何もやってないって! かずゆきの家に行っただけだから!」
「それがとても重要なことだったんだよ鈴谷。本当にありがとう」
「ちょ……マジでやめて恥ずかしい」
僕はつないでいる鈴谷の左手を高々と上げた。上げた途端、珍しく鈴谷が『ひゃっ』と声をあげていたが……気にしない。今回の一番の功労者は、……ムカつくけど……この鈴谷なんだから。
「鈴谷は……ただ、みんなの力になりたかっただけで……ひぐっ……」
「それが必要なことだったんだよみんなには。ありがとう鈴谷」
「やめてかずゆき……マジではずかしいから……ひぐっ」
「……」
「でもありがとう……ありがとうみんな……かずゆきありがとう」
妙高さんに言われた言葉をそっくりそのまま鈴谷にも見舞ってやった。泣かしてやったぜざまーみろ鈴谷。こんなこと言うのは今日だけだからな。もう言わないからな鈴谷っ。
盛大に鳴り響く鈴谷コールの中、鈴谷は涙目だけど笑顔でみんなに手を振っていた。
[8]前話 [9]前 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ