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忘れ形見の孫娘たち
11.ありがとう鈴谷
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「? かずゆき?」

 ヤバい。頭が真っ白だ……

「ヤバい……何も思い浮かばない……」
「ぶふっ……かずゆきキンチョーしてるの?」

 無責任に僕をここまで引きずってきた鈴谷は、僕の隣でおかしそうにほくそ笑んでいた。……ええいっこうなったら……!!

「鈴谷」
「ん?」

 改めて、僕は右手で鈴谷の左手を取った。右手から伝わる鈴谷の温かい感触が、ほんの少しだけ僕の心を沈めてくれた。

「ちょ……かずゆき……」
「なんだよ!」
「五歳児みたい……ぶふっ」
「うるさいわ!!」

 ホール内にクスクスと笑い声が響く。『二人とも仲いいなー!!』という涼風の声も聞こえ、さらに笑い声が響いた。ちくしょう。距離が近ければ涼風のほっぺたをぐりぐり出来たのに……!!

「あの……みなさまに、お礼を言います」

 少しずつ少しずつではあるが、言いたいことが頭の中で整理出来てきた。隣にいる鈴谷の顔が最高にムカつくけど……でも鈴谷は僕のことを馬鹿にしながらも手は離さずにいてくれる。スポットライトが僕と鈴谷をさらに照らす。思ったより眩しい。みんながいる席の方が暗くなり、見えなくなった。……よかった。暗がりのおかげで視線を感じなくなった。

「あの……僕は、これまで彦左衛門……爺様に、こんなに多くの仲間がいるってことを、知りませんでした」

 まとまってきた。爺様が死んでから今日まで、出会ってきたたくさんの人たち……そして爺様と仲良くしてくれたみんな……その人たちに、僕が伝えたいことは何だったのか。

「皆さんには本当に、感謝でいっぱいです。本当に、爺様……ひこざえもん提督と仲良くしてくれてありがとう。こんなにたくさんの方に愛されて、爺様は幸せものでした」

 『こちらこそデース!』『ありがとうかずゆきー!!』『ていとくありがとー!!』そんな声とともに、僕の言葉は歓迎された。でも、僕はもう一つ伝えたいことがあった。

 改めて鈴谷の顔を見る。鈴谷は吹き出すのをこらえてるようなムカつく笑顔で……それでも目からだけは『がんばれ!』という声援が聞こえてきた。

 そんな鈴谷に、僕は伝えたいことがあった。

「あともう一つ伝えたいことがあります。今横で僕の醜態を見ながらほくそ笑んでいる鈴谷に」
「へ? 鈴谷に?」

 僕の言葉を受け、鈴谷がきょとんとした顔で僕を見ているのが伝わった。僕は鈴谷の方を見ずに、みんなと、そして鈴谷に語りかけた。

「僕が今、こうやってみんなの前でこっ恥ずかしい挨拶ができているのも……爺様の死をみんなに悼んでもらう告別式という機会を設けることが出来たのも……何人かの人が爺様の家に直接来てくれたのも、僕がみんなと知り合えたのも、全部鈴谷のおかげです」
「……」
「初めて鈴谷が
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