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忘れ形見の孫娘たち
11.ありがとう鈴谷
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 文化会館を前々日の午後から貸し切り、準備に勤しんでいた甲斐があった。舞台には巨大な爺様の遺影のパネルと花に囲まれた祭壇……そして祭壇には爺様の位牌……なんとかこれで体裁は整った。

「出来たじゃんかずゆき!!」
「ぁあ……なんとかなったな……ゼハー……」
「だな……なんとか……歳は取るもんじゃないな……ゼハー……」

 昨晩は明け方四時までひたすら花を飾り、そして今朝は五時に起床して遺影を飾った……こんなにがんばって夜通し作業をしたことは仕事ですら経験がない……。

 それは僕と共に準備をしてくれた父ちゃんも例外ではなく……父ちゃんの目の下には悪魔の隈取模様のようなクマができていた。未だかつてここまで顔色の悪い父ちゃんは見たことがない。このままぶっ倒れてしまうんじゃないかと不安になってくる……。

「かずゆきもおじさんもおつかれ! がんばったねー!」
「鈴谷もな……ホント、よくやってくれたよ……でもお前まだ元気だな……」
「まーねー。鈴谷はかずゆきたちと違って若いですから! オールナイトも慣れてるしね〜!」

 とはいうものの、鈴谷も少し疲れが出ているようだ。いつもに比べてそのムカつく笑顔のボルテージは若干落ちているように見えた。

 実際、鈴谷はよくやってくれた。夜通し準備している僕と父ちゃんに付き合ってずっと起きてたし、僕らの夜食や必要備品の買い出しに奔走し、僕と父ちゃんをずっとフォローしてくれていた。

「しかし……これで終わりじゃ無いぞ……!」
「そうだね……これからが本番だね!」
「見ていてください……妙高さん……!!」

 僕と鈴谷が改めて今日の告別式の成功を誓うのと同時に、未だに諦めの悪い父ちゃんの口から妙高さんの名が出ていた。父ちゃん自身に、あの日の飲み会の最後のこっぱずかしい叫びの記憶はない。

「「ニヤニヤ」」
「ん? なんだお前ら?」
「なんでもないよー。ねーかずゆき?」
「だな。妙高さんの名がフェイクであるということ以外は」
「「ニヤニヤ」」
「?」

 父ちゃん、僕と鈴谷は知ってるよ。本気で父ちゃんが惚れてる相手は母ちゃんだけだって。

 タイミングよく鈴谷のスマホに着信があった。相手は大淀さんのようで、鈴谷は二言三言大淀さんと言葉を交わした後、スマホを切ってふところにしまっていた。

「お? みんなもう到着したのか?」
「みたいだね。かずゆき迎えに行こう!」

 鈴谷が勢い良く僕の手を取って、文化会館の入り口に連れて行こうとグイグイ引っ張ってくる。なんだこの力の強さ?! お前ホントに女の子なの?!

「ひどっ。ほらほら早く行こうよー!!」

 準備の疲れのせいで鈴谷の引っぱりにうまく抵抗出来ない!! やばい力で鈴谷に負ける時が来ようとはッ…!!

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