第6章 流されて異界
第145話 星に願いを?
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氷空は何時もと同じように、深く、果てしなく広がって居た。
手を伸ばせば其処は大宇宙。このままただじっと見つめて居るだけで、遙か彼方へと永遠に落ちて行く。そのような錯覚さえももたらせる広大無辺の世界。その深蒼に覆われたビロードの如き天穹には、今宵、雲ひとつ存在する事もなく、月光はその寒々とした光輝を地上へと投げ掛け続けて居た。
蒼く冷たい空気が肺を凍り付かせ、逆に吐き出す吐息が口元だけを白く温める。そんな、至極ありふれた仲冬の夜。
………………。
……いや、今宵は少しばかり違ったかも知れない。まるですべての穢れが洗い流されたように大気は清み、ふたりの頭上……三十八万キロほど上空に存在する月は、ゆらり、ゆらりと揺れている。
今宵はまるで、二夜ばかり早く訪れて仕舞った聖なる夜。そう感じさせるに相応しい夜であった。
まるですべてのモノが眠りに落ちたかのように、密やかに深々と更けて行く冷たい冬の夜。
その世界の中心。
その世界の中心を神韻縹渺と広がり行く歌声。
たおやかに、しかし、時に強く。それはまるで、二人の身体に絡み付くかのように後方へ向かって嫋々と流れ行く。
強い郷愁を誘う歌声。夜の闇に包まれた……月明かりと、そして彼女の歌だけが頼りの儚い世界。
しかし……。しかし、何故か怖くはない。例えここが、足元には何も存在せず、ただ深い重力の底に光る小さな明かりだけしか見えない場所であったとしても。
それは自らの腕の中に……。
「何?」
しかし、魔法に掛けられた時間は長くは続かないのが定め。地が裂け、山が崩れ、海に流れ出すその前に、たったひとつの言葉だけで、俺は現実と言う時間へと戻されて仕舞った。
……成るほど。どうにも、コイツとの関係は下世話で、至極散文的だと言う事なのでしょうか。
蒼穹と大地の丁度中間点。足元……。重力の底には人々の生活を示す小さな色彩が、其処、そしてあそこと言うように煌めき、
仰ぎ視れば、其処には降るような……と表現される大宇宙のパノラマが広がる。
正直この場所。様々な色や光を見渡せる人ならざる者の視点で、それもやや不機嫌な声で問い掛けられるよりも、あなたは何時も私の味方で居てね、……と言われた方が、よほど気分が出ると思うのですが。
もっとも、その台詞自体が俺の腕の中に居る少女には似合わないことこの上ない、と言う事も同時に理解しているのですが……。
ただ――
「――寒くはないか?」
ただ、月明かりに照らされた彼女の横顔と、その紡ぎ出した歌声の世界に心を彷徨わせていた、などと言う事を気付かれるのも少々癪に障る。コイツが散
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